ピン2メートル、打ち切れず致命的なボギーに
次の4打目、絶対にミスができないアプローチをトンプソンはウェッジを使わずにパターを選択。確かにミスは起きにくいが、寄せるとなると芝の抵抗をどれだけ読むかが難しい。うまく打ったが、ピン2mに寄せるのが精一杯。このパットを打ち切れずに致命的なボギーを喫した。
笹生はバンカーからスーパーショットを披露してバーディを奪い、遂にトンプソンをつかまえた。しかも前を回る畑岡もトンプソンと並んだのだ。
攻撃ばかりに目が向くと守りが手薄になる。攻撃がうまく作用しているときはいいが、一旦流れが悪くなったときに崩れてしまう。ゴルフにおいての守りはアプローチショットである。グリーンをはずしたときにもパーが取れる。それが勝利の生命線となるのだ。
最終ホール、トンプソンはティショットを懸命にフェアウェイに放つ。勝つためにはバーディが必要である。トンプソンはグリーン手前に切ってあるピンを目がけた。
しかしこのショットがまたもや短い。グリーン手前のバンカーにずっぽりと入ってしまったのだ。バンカーショットは当然の如くグリーンを5mもオーバー。悲しいのはこの下りのパットを打ちきれずにショートしたことだ。
自分の持ち味が「無謀なゴルフ」になりうる
「ネバーアップ、ネバーイン。カップに届かなければ決して入らない」
150年前のレジェンド、トム・モリスの言葉は今も生きている。笹生はバーディパットがカップ横をすり抜けてパー。前を回った畑岡もパー。トンプソンは1打の差で勝利を手にすることがなかった。
最終ホールでピンを狙わずに確実にグリーンに乗せてパーを取っていたらプレーオフには持ち込めた。しかし、それこそトンプソンのゴルフではないだろう。
最終日、3日目のようにドライバーを封印して徹底して刻んでいたら、結果は違っていたかもしれない。しかし、最終日は自分のゴルフで勝ちたかったのだ。ドライバーで270ヤード以上をかっ飛ばして勝ちたかったのだ。それが無謀なゴルフになり得ることを11番のダブルボギーで自覚する必要があった。
しかし、トンプソンはそれでも刻むことをしなかった。「自分のゴルフを全うする」ことに意地を張り続けた。アプローチという守りが苦手でも攻撃さえうまくできれば勝てるはずだ。それこそアメリカンヒロインだと。しかしそれはやはり自分勝手のエゴイズムに他ならなかったのだ。
アーノルド・パーマーは「少しの見栄ですべてを失う」と言ったが、トンプソンの場合は「自分のエゴですべてを失った」ということかもしれない。