「声」と高齢者市場の可能性

【緒方】「耳の奪い合い」が起きているようですが、今後、ボイステックと組み合わせると相性がよさそうな業界や分野についてどう思いますか。

緒方憲太郎『ボイステック革命 GAFAも狙う新市場争奪戦』(日本経済新聞出版)

【宮坂】僕はやっぱりシニアだと思います。BONXは音声コミュニケーションツールとして介護現場でスタッフの方に使ってもらっていますが、日本の介護は施設より在宅の方が多いんです。在宅だと特に、「寂しさ」が大きな課題で、コミュニケーションが重要なんです。だから今、ロボットとかに注目が集まっていますよね。先日はSOMPOホールディングスが、コミュニケーションロボットの「LOVOT」(ラボット)を作っているGROOVE X(グルーブエックス)に出資しました。

昔は井戸端会議やご近所づきあいがあったけれど、今はなかなかありません。これから高齢化はもっと進むし、そういう高齢者向けにクラブハウスみたいなツールやサービスがあると、もっと価値が出てくるんじゃないかと思います。

音声は気持ちを動かせる

【金子】僕がいるコエステは、合成音声技術を活用したプラットフォームを提供しているんですが、介護サービスの会社から話が来たことがあります。認知症の患者さんが、家族の声だけになら反応するということもあるそうなんです。また、例えば安否確認サービスで、今だとスタッフが電話をかけて安否確認をしていますが、人手不足ということもあるし、コエステの機械音声を使えないかと。

そしてせっかくだったら、家族の声、孫の声で安否確認の電話をかけることができれば、サービス価値が上がるのではという話がありました。

【八木】特定の人、「孫の○○ちゃんの声」だといいですよね。音声は気持ちを動かせるということですね。

【金子】そうなんです。声って顔や指紋と同じで、人のアイデンティティの一部だと思うんです。例えば、おじいちゃんが孫の声でニュースが聞きたいと思ったときって、その子の声色が好きだから聞きたいわけではなくて、その子の声だから聞きたいんですよね。

それは家族だけじゃなくて、例えば毎朝、好きな芸能人の声で起こしてほしいと思ったとしても、それはその人自身が好きだからその人の声で起こしてほしいわけで、声色が好きだからというわけではないはず。声の価値は、人の価値に紐づいている。すごくエモーショナルなものだと思います。

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