※本稿は、緒方憲太郎『ボイステック革命 GAFAも狙う新市場争奪戦』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。
日本のハード産業は「残念な状況」
【宮坂】僕は、グループ通話ソリューションを手掛けていて、ワイヤレスイヤホンも作っているんですが、日本のハードウェアはすごく残念な状況ですね。日本に住んでいると、ソニーもオーディオテクニカもあるし、「日本のブランドってオーディオデバイスはそこそこいいんじゃないか」と思っちゃいますが、グローバルではほんとに存在感がないんです。基本的にアップルのAirPods(エアポッズ)が圧倒的に強くて、ワイヤレスイヤホン市場の半分ぐらいを取っている。あとは中国や韓国、そして日本のメーカーが残りの市場を分け合ってるという感じです。
昔は日本のコンシューマーエレクトロニクス(家庭用電化製品)は世界で強かったけど、今はかなりシェアが落ちているし、技術も追いつかれている。イヤホンについては、国内でちゃんと作れる工場がほとんどないんですよ。産業の空洞化が進んで、中国や台湾、韓国に出てしまっています。
ワイヤレスイヤホンの中に入っているBluetoothチップセットは、アメリカのクアルコムが圧倒的なシェアを持ってるんですが、日本にはクアルコムのファームウェアを作れる人がほとんどいない。イヤホンのハードも中のソフトも作れる人がいないんですよ。ほんとに残念です。
このビジネスを始めた最初の頃は、せっかく日本からこういうイヤホンを作るんだから、できれば「メードインジャパン」でやりたいと思ったんですが、できないんです。
「高くなるから」とかそういう問題ではなくて、「できない」。
僕も、昔の「ものづくりと言えば日本」みたいなイメージがあったので、日本発でハードを作るならアドバンテージがあるんじゃないかと思ってたんですが、むしろ逆だったという……。中国の深センで作った方が早かったかもという感じがします。悲しいですよね。
日本語が参入障壁に
【緒方】ハードの面では日本は苦しい状況ですね。テクノロジーの面ではどうでしょうか。
【金子】音声合成技術や音声認識技術の分野は言語依存が大きいので、これは日本にとって強みにも弱みにもなります。私は、音声合成技術を手掛けるコエステにいるんですが、コエステが海外展開をやろうとすると、言葉の壁があるのでそう簡単ではないです。でも、グーグルやアマゾンみたいな資金力があるグローバル企業でも、日本語の市場はそう簡単にコエステに勝てないんですよ。言語が参入障壁になっている面もあるわけです。
【八木】スマートスピーカーも言語の壁のせいで、日本展開ってだいたい英語圏から3年くらい遅れてますよね。グローバルの音声系サービスは、グローバル展開するとしてもだいたい日本市場は最後みたいなことが多い。
【金子】そうなんですよ。日本語って結構特殊なんですよね。いろんな言語の中でも特に難しいんです。
【八木】漢字とカタカナとひらがなが混じると、もう歯が立ちません。