通貨になり得ないビットコインの致命的な欠陥

内戦を経験した国やハイパーインフレを経験した国では、人々が資産防衛の手段として米ドルなど信用力が高い外貨を現金で所持していることが多い。米ドルを法定通貨にするという決断も、人々が貯蓄のみならず、日々の決済までも米ドルで行っている状況を追認したまでにすぎない。要するに、人々は通貨に対して信用力を求めるものだ。

なぜ米ドルが高い信用力を持つのか、それは覇権国である米国で発行される通貨だからだ。暗号資産であるビットコインには、そうした裏打ちは一切ない。そうであるからこそ、ビットコインは投機マネーを引き寄せ、価格は乱高下を繰り返すのである。そうした性格を持つビットコインに、エルサルバドルの国民は信用を寄せるだろうか。

内戦を経験した世代ほど、米ドル紙幣への信仰は根強い。古老ほどインターネットでの取引には抵抗感があるものだ。インターネットに対する抵抗感がない若い世代を中心にビットコインでの取引はある程度広がるかもしれないが、結局のところ価格の乱高下というビットコインが持つ投機性が嫌気される可能性は高いと考えられる。

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つまりビットコインの場合、価格上昇局面では資産効果が働くため、これが国内のインフレ圧力になり得る。反面で、価格下落局面では逆資産効果が生じるため、当然デフレ圧力が強まる。ビットコインの利用が一部の国民に限定されるようなら、さして問題にはならないだろうが、物価の安定という観点からはやはり警戒される動きである。

犯罪性の強い経済取引に用いられるリスク

より意識されるべきは、ビットコインが犯罪性の強い経済取引に使われるリスクだろう。隣国ホンジュラスやグアテマラとともに、エルサルバドルは中米の「北部三角地帯(northern triangle)」を形成、その治安の悪さや犯罪率の高さは折り紙付きだ。暴力組織も活発であり、麻薬取引など違法な経済活動が横行していることでも知られる。

麻薬取引やマネーロンダリング(資金洗浄)などの闇取引にとって、匿名性が高い暗号資産での取引はうってつけの手段だ。米ドルでの取引であれば、送金業者や金融機関を必ず経由することになる。それがグレーな性格を伴う取引であれば、当局による捜査が入ることになる。しかしビットコインで送金を行えば、そうした横やりを回避することができる。