「久々に本格派が登場した」と言われていた中西氏
財界の存在感が低下しているとの声に対し、「久々に本格派が登場した」と言われて登板した中西氏は、時代遅れになった就職活動の横並び打破や終身雇用制の見直し、さらには女性の地位向上のために副会長にDeNA会長の南場智子氏を登用するなど、慣例にとらわれない活動をしてきた。これまで歴代会長が避けてきたエネルギー問題についても「資源のない日本にとって原子力発電は必要だ」などと、直言してきた。
ただ、心残りだったのは足元の財界改革だっただろう。GAFAの台頭に象徴されるデジタル革命により経済を牽引する主役がIT企業にシフトするなか、時代遅れの重厚長大型企業が幅を利かせる財界改革にも取り組むはずだった。それを実現するために期待していたのが、トヨタだった。
グーグルやアマゾンなど巨大ITが席巻する現在、自動車は日本が世界で勝負できる数少ない産業だ。雇用への波及力も高い。経団連会長を輩出してきた日本製鉄や東芝、日立なども自動車メーカーにとっては取引先のひとつにすぎない。
デジタル化にしてもCASEの対応で通信業界とのつながりも年々強くなっている。まさに各産業の結節点となる存在だ。経団連の地盤沈下を食い止めるためにもトヨタ待望論は強かった。とりわけ中西氏が見据えていたのが、トヨタ社長である豊田章男氏の経団連会長就任だ。
トヨタから経団連副会長がいなくなる異例の体制に
しかし、肝心のトヨタは呼応しなかった。中西氏の任期は本来なら来年6月。トヨタからは早川茂氏(トヨタ副会長)が経団連の副会長にいるが、6月に副会長の任期を迎える。豊田氏を経団連会長にするには、この6月に豊田氏を経団連副会長に据える必要がある。
経団連は事務局も含め、トヨタ詣でをしてきたが、トヨタからは一向に返事が来ない。トヨタにとっても豊田氏が経団連会長になるようなことがあればトヨタの首脳人事も考えなければならない。こうしたなかで、トヨタの対応が注目されたが、早川氏の後任については年が明けてもトヨタから色よい返事は来なかった。
結局、経団連の願いもむなしくトヨタは自社の人事を優先する。豊田氏はそのまま社長を続け、副社長以下の人事を刷新した。経団連副会長の更新期を迎える早川氏は審議会の副議長に退くことになり、トヨタから経団連副会長がいなくなる異例の体制となった。
豊田社長が経団連の会長職を避ける理由はいくつかある。「社業優先」に加えて、最近では政府が掲げる脱炭素の方針について「不快感が募っている」(トヨタ幹部)との声も聞かれる。経団連が政府との距離を近付けるほど、急速な脱炭素を警戒するトヨタとの距離が離れるというジレンマの状態なのだ。