「今の経団連でトヨタをサポートする企業がいるのか」
脱炭素の動きを巡っては、化石燃料からの脱却を進める過程で、欧米は自国産業を保護するために「国境調整措置」の検討を進めている。なかでもEUは部品なども化石燃料から発電して、その電気を使って製造したものは「クリーン」ではないとして、炭素税の対象とする方向で法制化を急いでいる。かつて日本の自動車メーカーは海外から円高誘導という「為替」で締め出されたが、今回は「二酸化炭素」で排除されようとしている。
トヨタのスタンスは「電力の問題は自動車産業だけでは解決できない」というものだ。すべての車を電気自動車(EV)にするにしても、バッテリーはエンジンを作るより単位当たりの電力消費量は多い。日本の自動車業界が一斉にEVにシフトした場合に、今、日本のエネルギーの主流になっている石炭やガスなどの火力発電を使わずに、再生エネルギーで賄える状態になるのか。原発はどう扱うのか。そのあたりのコンセンサスは経団連の中でもできていない。
特に産業別でみて二酸化炭素の排出量が最も多いとされる鉄鋼業界の場合、今の高炉方式による製鉄を電炉や水素を使った製法に変えた場合のコストは兆円規模にのぼる。
こうした日本の産業界に突き付けられる課題に対し、経団連はただ政府のいうことの「お追従ばかりだ」との疑念がトヨタにはある。仮にトヨタが経団連会長企業になった場合、財界代表として政権と向き合うことになる。その際、「今の経団連でトヨタをサポートする企業がいるのか」(トヨタ幹部)との不満がある。
脱炭素では「総論賛成・各論反対」の状態が長く続く
ただ、トヨタとしても政府と正面から対峙することは避けたい。過去の急激な円高の局面や最近では「アメリカ・ファースト」を掲げ内向き志向を強める米トランプ政権発足時など、トヨタは政府・日銀などに円高の緩和やトランプ氏との融和を要望した経緯がある。トヨタが今までの政府への「恩義」を忘れ、脱炭素に否定的なスタンスを取り続ければ、脱炭素の動きに躊躇する「抵抗勢力」として、政府や市場から批判を受けるリスクもある。
経団連は財界の代表団として、利害が異なる企業の調整をしなければならない。特に脱炭素については総論賛成・各論反対の状態が長く続く。賛否両論が渦巻く原発の再稼働の問題についても避けては通れない。経団連から距離を置く豊田氏には「企業の枠を超え、日本の産業全体の将来について考え、実行していくその覚悟ができていない」(経団連幹部)との声もある。
かつて経団連の会長を務めたトヨタの奥田氏は「単に社員の首を切って対応しようとする経営者なら、そんな経営者こそクビだ」と言い放ち、円高下で相次いでリストラに踏み切る当時の経営トップの姿勢を批判した。
そして円高下でも雇用維持を貫き、返す刀で時の政権には円高の是正などを求めた。当時の靖国参拝問題で中国と緊張関係にあった小泉純一郎首相をいさめつつ、何回も中国に足を運び、両国の経済関係の維持に努めた。
3人の財界総理を出した日本製鉄も貿易摩擦で日米関係が悪化した際に、自らの利益を削ってまでも対米関係の修復に力を注いだ。
“軽”団連と言われて久しい経団連が閉塞感を強める日本の産業界を牽引できる存在に再び戻れるのか。十倉新会長は重い責務を抱えている。