「決済手段としての暗号資産」と言えば、3月には米電気自動車大手テスラが同社製品の購入代金をビットコインで受付可能にし、イーロンマスクCEO自らが「テスラに支払われたビットコインはビットコインとして持ち続け、不換通貨に換金しない」と宣言し、ビットコインが急騰したことも耳目を集めた。

イーロンマスク氏(写真=Steve Jurvetson/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

しかし、5月に入り、ビットコインを生み出すマイニング作業の過程で膨大な電力消費が環境負荷として好ましくないと述べ、ビットコイン決済の可能性を翻した。これに応じてビットコインは急落している。その後、マスク氏は法定通貨よりも暗号資産を支持すると述べ、またビットコインは上昇している。

ここで同CEOの言動について道義的是非を問うつもりはないが、いち企業(いち経営者)の言動で価値がこれほど変動するものが「通貨」と名乗るのは根本的に無理である。

 

暗号資産は「貨幣3機能」を満たしていない

なお、暗号資産が法定通貨に勝ると思われていた決済機能は貨幣に想定される3機能の1つに過ぎない。3機能は①価値尺度、②決済手段、③価値貯蔵である。

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②として使えない(使われていない)という議論は上述の通りだが、①も③も満たしていないというのが実情だろう。

決済手段として使われない以上、通貨としての実需(≒利用価値)がないということである。実需が拡がっていかなければ企業部門や家計部門で日常利用されるには至らない。だから通貨に慣れないし、金利も付かないのである。

これだけでも議論は尽きるが、①の機能ならばどうだろうか。

例えば原油や金の値段がビットコインで表示される未来が想像できるかを考えれば良い。ドル建てで表示されるのはドルの価値が最も安定しているからという暗黙の前提がある。1カ月で価値が半減するような単位で財やサービスの普遍的な価値を表現するのは無理である。価値尺度にもならない。

次に③の価値貯蔵機能はどうだろうか。敢えて言えば、この点は最も暗号資産の魅力が見出されやすい機能なのかもしれない。月単位で倍になる可能性があれば、そこに十分な期待値を認め、投資対象とする投資家もいるだろう。

存続するなら“資産運用先の一つ”という程度

暗号資産が今後も存続するとすれば、それはやはり「資産運用先の一つ」として選ばれるコースが濃厚だと筆者も思う。

だが、暗号資産の異様に高いボラティリティは投資家からすればリターンを蝕むリスクであり、株・債券・為替といった伝統的な資産クラスはおろか、これに次ぐオルタナティブ資産の中でも商品や不動産には及ばない位置づけだろう。ボラティリティが高いという事実は価値貯蔵に最も向いていない特徴と見なすこともできる。