「芸能人の○○さん、うちに受診するんですか?」

被害は専門家の私にも飛び火する。逮捕された芸能人が保釈されるたびに、勤務先の病院に報道陣が詰めかけ、付近の路上に中継車が何台も連なって駐車するのだ。当然、近隣住民からクレームが入り、病院の事務部門から詰問される羽目になる。

「松本先生、今日保釈予定の芸能人の○○さん、うちに受診するのですか?」
「それはないです。少なくとも私はそんな話は聞いていない」

そう私が答えると、相手は、

「もちろん、プライバシー保護が大事なので話しにくいのはわかりますが、受診するとなればこちらも対応方法や診察室までの動線を考えなければなりません。怒らないので正直に教えてください。やはり受診されるのですか?」
「怒られる筋合いはないし、嘘つく道理もないです……」

冗談のような話だが、嘘ではない。

「流行りものだから」という理由だけで飛びつくマスコミ

専門家のコメントを取ろうとしてテレビ局や新聞社からの連絡も多い。その大半が、薬物問題にまったく関心がなく、私ともまったく面識のない記者が、「流行りものだから」といった理由から飛びついているだけだ。

松本俊彦『誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論』(みすず書房)

うっかりコメントしようものならば、自分の言葉をどう切り取って使われるか予想もつかない。だから、そうした取材要請にはいっさい応えないが、粘り腰の記者を諦めさせるには生半可な気力では足りない。

それでも、「これは」と思う記者からの取材はできるだけ受けてきたし、必要があればテレビにだって出演した。もちろん、「人の不幸を飯の種にしている」という後ろめたさは皆無ではないが、だからといって、啓発の機会を逃すべきではない。

とはいえ、ある媒体が信頼に値するのかを判断するのはむずかしい。私自身、これまでに何度となく読みが外れ、傷ついたり、落胆したり、憤ったりしてきた。

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