現代の日本人は仏教に信仰を求めているのか

次に注目したいのが、現代の日本人にとっての信仰の位置づけだ。ブッダボットは、最古の経典『スッタニパータ』から抽出したQ&Aリストを機械学習し、それに基づいてユーザーからの質問に助言を行う。試作状態だが、ブッダボットが出す答えには、「現代の日常生活においても有用な内容のもの」が多数含まれているという。

仏教経典に書かれた信仰を現代社会に活かすのがブッダボットの試みである。現代人がより良く生きるための手がかりが2500年前の信仰に隠されている、その信仰を改めて普及することで日本仏教も復興するというのが開発者の見立てであるが、そもそも日本人は仏教に信仰を求めているのだろうか。

この点で興味深いのが、各仏教宗派による実態調査である。浄土宗では、全国の寺院と檀信徒を対象にしたアンケート調査が行われ、その研究成果報告書が『現代葬祭仏教の総合的研究』(2012)として公刊されている。

浄土宗の教えでは、葬儀は死者を極楽往生させるための儀式であり、そのために仏教徒の証しである戒名の授与、阿弥陀仏の来迎引接らいこういんじょうを願う通夜などが行われる。

写真=iStock.com/Yuuji
※写真はイメージです

しかし、同報告書によれば、家族の葬式を行った人を対象に葬式の意味を聞いた質問では、「故人(霊)を極楽浄土(あの世)へ送る」と答えたのは3割程度で、約6割は「故人との別れ」「故人の冥福を祈る」「残された遺族の心を慰める」等と答えた。つまり、多くの人は葬式を宗教儀礼ではなく、「人間関係での儀礼」として捉えているのだ。

浄土真宗門徒の40%が根幹をなす思想を知らない

「自分のお葬式の意味」についての質問でも、「家族や友人などとの別れ」が43%と最多で、葬式が浄土宗の教義とは離れた「告別(お別れ)の式」として理解されている。そして、「故人の霊は、あなたにとってどのような存在であると思いますか」という質問には、85%が「見守ってくれている」と回答した。ほかの選択肢、「困った時には助けてくれる」(1%)、「供養をしないと良くないことが起こる」(2%)等を選んだ人は極めて少ないのである。

同様の傾向は、他宗派にもみられる。浄土真宗は日本仏教の中でも特に信心を重視する宗派だが、実態調査からは、門徒と呼ばれる真宗信者に必ずしも信仰が根づいていない様子が見えてくる(「浄土真宗に関する実態把握調査(2018年度)」)。

この調査では、浄土真宗の信仰基盤となる概念の認知度が調べられているが、言葉の意味内容まで知っている割合は、「他力(他力本願)」約28%、「往生」約30%、「悪人正機あくにんしょうき」約19%と極めて低い。とりわけ「悪人正機」は真宗の根幹をなす宗教思想であるが、門徒の40%以上がそもそもこの言葉を知らなかったのである。