医療保護で長期入院する患者は「お得意様」

——先発医薬品の薬を処方するメリットは?

「薬局は医者とグルになっていることも多いから、薬局も薬価の高い薬を売れるメリットもあるんとちゃいますか」

——それは西成という地域性の問題ですか、それとも大阪や国全体の問題ですか?

「地域性の問題やと思います。そのようなクリニックだけでなくこの地域にある責任感のある病院は、患者の囲い込みや複数の医療機関に通い、同じ効果のある薬の処方を止めようなど、これらの問題から改善していこうと医師会などでも提案しました。だけどここらの医者は病床を持たないクリニックが多いために、そのような声は揉み消されてしまうのです。当然このようなクリニックがすべてとは言いませんが」

と、吉田さんは続ける。

患者の囲い込みは“貧困ビジネス”で大きな社会問題となった。退院できる患者を囲い込み、3カ月ごとに系列や関係している病院に転院させる方法だ。

これは、通称“90日ルール”と呼ばれる医療費の問題だ。90日を超える入院患者は特定患者に指定され診療報酬が低くなるなどの弊害があるため、系列している病院を持っている中小規模の病院は患者を転院させて、初めから高額の診療報酬を行政から取るのだ。

そのために、西成区をはじめ生活保護に甘い行政区を中心とした医療グループがいくつも形成されて一種の“貧困ビジネス”問題に繋がった。

簡潔に書けば、これらの長期にわたって入院する患者は行政が生活保護の中の1つの制度である医療保護を使っているために、支払いが不可能にならない、言うなれば“おいしい患者”さんであり、お得意様だ。

また、新たな疾患が発見される事態になれば、当然それは違う疾患として処理をされ、“90日ルール”は適用除外される。

加えて、患者には外泊などをさせて一旦外に出すことでカルテには退院と書き、それを行政に提出する抜け道なども横行している。

それとは別に一般の医療保険では“180日ルール”などが問題となっていて、これは西成に限らず全国的な問題となっている。

ワケありの人が病気やケガで倒れたらどうなるか

人が最後に流れ着く街と表現されることの多い、西成・あいりん地区。

ワケありの人間が多く流れ着くために、国民健康保険証はおろか身分証明書すら持っていない人間も数多く住んでいる。

——本来は国民が全員持っているはずの社会保険証や国民健康保険証などを持っていない人間が流れ着いたり、流れ着く途中に病やケガで倒れたらどうするのでしょうか。

「それらは法律上“行旅人”と呼ばれます。その人間が救急搬送されると、倒れた場所の自治体が面倒を見ることになっています。それらは“行旅病人”と呼ばれ、自治体から手厚い保護をしてもらえます。

手厚いと言っても最低保証の医療なんやけど、そこは医師の医療に掛けるモチベーションによって変わります。高水準で普通の患者さんと同じ診察などをされる自治体などもありますが、大阪の場合、引き受ける病院はホンマに限られます」

と、吉田さんは語る。それらの病院は西成区にも多くあるが、それだけでは経営がうまく回らないために、近隣の区にも点在していると話す。