L型企業が活性化しなければ日本の未来はない

L型の需要はその地域で今後爆発的に増えるということはありませんが、一定以上は必ずある。それにもかかわらず現時点では供給側の減り方が激しい。生産年齢人口の減少により、構造的に人手不足になっている。

さらに後継者問題もあります。働き手の人手だけでなく、経営者の人手も足りない状況になってしまっているんです。もともと人間の労働力に頼っている産業ですから、一人一人の労働生産性がなかなか上がらないと、収益が上がらず、結果として低賃金産業に陥りがちです。

こうした企業の問題に目が向けられなかったのは、グローバルな産業が雇用の受け皿になっていたからです。これは建築や土木工事も同じで、海外展開もできる大資本が仕切って、様々な形で下請け企業に仕事を回してきました。

【田原】かつては工場で社員を雇うだけの余裕があったけど、グローバル化とデジタル化で大企業に余裕がなくなって、そういった工場では非正規雇用が増えている。東日本大震災による復興予算や東京五輪関係の再開発も受け皿になっていた。でも、これからはそうじゃない。

【冨山】そうなると、多くは非正規で、ということになっちゃう。非正規雇用になっちゃうんですね、こういった産業は。

【田原】大都市の非正規雇用ね。

【冨山】そうです。ですから、ある意味でL型企業は日本経済のバッファとしてずっと機能してきたような位置づけだったんです。けれども、現在は構造的にこうした産業にかかわる人が圧倒的に増える一方で、もはやG型産業の古典的なサラリーマンが増えることはない。そうであれば、L型産業群の経済を活性化しないと、日本の経済の未来はないということになります。これは論理的な帰結です。

地方の犠牲の上に成り立つ東京の繁栄を是正すべき

若い女性も男の子もみんな東京や大都市に吸い込んで、額面では地方にいるより高い給与になるかもしれないけど、高い家賃と生活費をまかなって貯金もできて……という仕事なんてそうそうありません。

冨山和彦、田原総一朗『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(角川新書)

ほとんどの若者は東京にあるL型産業で働いています。それで、結婚や子どもを持つことに不安がある状況のまま年を重ねてしまう。問題は地方から出てきた若者にあるのではなく、地方にある仕事に人材が回らず、彼らの力を活用できていない構造にあります。

東京の繁栄というのは、地方の人口を食いながら繁栄していると言ってもいいですね。この不幸な構図を変えていかないといけない。

地方都市、たとえば、宇都宮市やいわき市、あるいは長野市を想像してほしいのですが、そうした都市に若者が東京から離れて仕事のために戻って、仮に年収が1人当たり350万から400万円くらいの仕事につければ、貯金も結婚も育児もできます。私が経営にかかわっているみちのりグループのバスの運転手なら、正社員として年収400万円以上の人はたくさんいます。

関連記事
会社が絶対手放さない、優秀人材6タイプ
堀江貴文「コロナ不況でも儲かる飲食店と潰れる飲食店の決定的な違い」
「日本人なら中国人の3分の1で済む」アニメ制作で進む"日中逆転"の深刻さ
「いまは保育園の清掃」続く減便、冬ボーナスゼロでも私がCAを辞めない理由
元マイクロソフト役員が「社員のエクセル作業」を原則禁止にした納得の理由