喧嘩腰の相談者には「お会いできてよかったです」

後日談がある。川西には子供が2人いて、7歳の次女が「自分を好きになれない」と言い出したという。

「チャット相談では、同じ悩みを持つ相談者に『自分にも同じようなことがあります』と、冷静に返していました。でも、次女の発言には、母親として共感できず、『そんなことを思わず、もっとキラキラした子供時代を送ってほしい』と願ってしまった自分がいたんです。かなり矛盾していますよね」

半面、次女がネガティブな気持ちを正直に話してくれて、うれしかったとも川西は明かした。

「私は子供の頃、自分の本当の気持ちを、母親には言えなかったからです。母とは違う母子関係を築けていることに、かなりホッとしました」

小学生の頃から常に厳しく、ダメ出しばかりする母親に、川西は自分の正直な気持ちを言えなくなった。

「そのせいか、会計士になった今でも、自己肯定感を持ちづらいんですよ、他人と自分を常に比較してしまって。ですから、母は私の反面教師。でも余裕がなくなると、私も娘たちにダメ出ししちゃいます。相談員として『相手を否定しない』や『話をちゃんと聞く』ように努めることで、子供たちにも同じように向き合えるようになってきています」(川西)

撮影=黒坂明美
(右)米国人社会起業家の本と出合ったことがNPO設立につながった。(左)世界19カ国の相談員を3組に分け、大空の将来の夢である保育園にちなんだユニット名をつけた、という。

3人の子供を育てる大学職員の鈴木千鶴(50)は、20年5月から相談員を始めた。

相談が夜間に集中するために、相談員にすぐに対応してもらえず、最初から喧嘩腰の相談者もいる。そんな人でも「お会いできてよかったです」などと感謝を伝え、丁寧に対応していると、次第に落ち着いてくるとわかった。みんな、誰かに話を聞いてもらいたいのだ。

「私も相談者の話に感想を伝えることに慣れ、家庭でも夫に自分の意見を言うことで、冷静な対話ができるようになりました。以前は声の大きい夫の前だとつい萎縮して、黙り込むことが多かったからです」(鈴木)

多様な相談と向き合うことで、本当に人それぞれだなと体感し、物事を受け止める心の幅が広がったせいかもしれないという。

チャットによる悩み相談の世界を、今回のぞかせてもらった。母親相談員らの話から見えてきたのは、相手の話を途中で口をはさまずにきちんと聞く、という対話の基本。それだけで人は救われたり、元気になれたりするという。その傾聴の姿勢は誰にでも、今日からでもまねできる。(文中敬称略)

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