閉鎖病棟へ入院、看護師は母に睡眠薬だといってラムネを渡した

2013年1月。ショートステイ利用時、母親は夜中にトイレの前でブツブツ呟きながら失禁。蜂谷さんが精神科医に相談すると、即入院準備となる。

「若いうちから精神安定剤を飲んでいると、認知症を発症しやすいといいます。母の認知症は、この頃から急激に悪化していきました」

同年2月。母親はかつて入院して「もう二度と嫌だ」と言っていた閉鎖病棟に入ることになった。

「ひどい娘だと思う人もいるかもしれませんが、これがわが家の最善策でした。当時の母は、現実と夢の中を行ったりきたりしているような感じでした」

蜂谷さんは、病室で母親が文字とは思えないサインを書く様子を見つめているうちに、涙が止まらなくなっていた。

閉鎖病棟の医師は、薬物依存症になっている母親から、まずは薬を抜くという治療方針だった。母親は毎日何度も、「眠れないから薬をちょうだい」と言ってナースステーションにやってくる。あまりにしつこいため、看護師はラムネを渡すことにしたという。

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母親はイチジク浣腸にも依存していた。一時帰宅した際に一気に6本も使った母親は、その後、リビングで大変なことになっていた。

一時帰宅した理由は、眼科への通院だった。母親は眼科医から、「緑内障で、左目が失明していますね」と言われ、翌日、閉鎖病棟内で首を吊ろうとして看護師に止められる。事前に蜂谷さんが「母は精神病院に入院中です」と伝えているにもかかわらず、配慮のない眼科医に蜂谷さんは言葉を失った。

やがて母親は、高齢者病棟へと移った。

迫る母親の死、さらに息子が腐り始めて足を引っ張る

美容師の仕事をしながら、母親のケアをしている蜂谷さんは、それだけでいっぱいいっぱいだったが、この後、新たな厄介事が起こる。ひとり息子だ。

2013年夏、中学3年生になっていた息子は、ラグビー部の全国大会で優勝。息子の活躍は、新聞や雑誌に取り上げられた。

中高一貫校だったので、そのまま高等部へ進学するも、高等部のラグビー部監督と合わず、だんだん練習に参加しなくなっていく。蜂谷さんは練習に行くよう促すが、夫は「嫌なら休めばいい」と言う。

息子は練習を休むと、病院まで10キロの道のりを、自転車で祖母に会いに行った。小遣いをねだるためだ。

2014年、息子はますます部活を休みがちになる。蜂谷さんが小言を言うと反発し、その度に部屋の壁に穴を開けた。

一方、母親は、入院中にもかかわらず、「服がないから持ってこい」と言い、言うことを聞いて服を持ち込むと、看護師さんに「服は十分あります」と注意された。

「読んでいた漫画を突然取り上げてビリビリに破かれるなど、母とのいい思い出がなく、入院させて申し訳ないとか後ろめたいといった気持ちもありませんでした。でも、オシャレが大好きだった母なので、せめて服くらいはと思いました。入院生活が長くなり、私にも多少、母を憐れむ気持ちが出てきたのかもしれません」

蜂谷さんは毎週、面会だけは欠かさなかった。