はじめは「成功」するために努力していたはずなのに、そのうち努力自体が目的になってしまう。すると、「努力=成功」という短絡的な思考に陥り、「努力すれば『必ず』成功する」と考えはじめる。そして、努力を続けても成功しなかったときに、必要以上にガッカリする。「いままでの努力は何だったんだ……」。それはとても残念だし、避けるべきことだと思う。

努力はあくまで「成長」を促すもの。そこを見誤ってはいけない。人は努力を続けることで「これくらいがんばれば、これくらい成長できる」「このまま努力しても、成長できない」という予測が立つようになる。すると次第に「成功」のための冷静な分析もできるようになる。つまり、努力でつかんだ成長が、少しずつ、成功への足掛かりになっていくのだ。

「努力すれば成功する」という考え方は、子どもたちには有効かもしれない。それは努力するクセをつけるためのモチベーションにもなるから。でも、大人はもう、その考え方から卒業したほうがいい。なぜその努力をするのか、自分で説明できるようになろう。

撮影=関健作

7.「せっかくここまでやってきたんだから」に注意する

「せっかくここまでやってきたんだから、もうちょっとがんばってみようよ」。そんな言葉に、どうか縛られないでほしい。努力の「元」をとろうとすると、人は引き際がわからなくなってしまう。

為末大『為末メソッド 自分をコントロールする100の技術』(日本図書センター)

僕たちは、「やめることは悪いこと」と教わってきたところがある。だから、途中でやめることに強い抵抗感をもってしまう。「ここでやめたら、他のどんなことも長続きしないよ」と忠告された経験がある人も多いだろう。それに、人は「これまでやってきたことが水の泡だ」というように、いままでの努力を「回収」しようとしがちだ。

でも、こう考えてみたことはあるだろうか。「それをやめないと、体験できないことがある」。あることを続けることは、別のあることをはじめるきっかけを逃していることでもあるのだ。僕は陸上競技を引退したことで、いまの仕事ができるようになった。そう考えることもできるだろう。何かをやめることで、別の何かをはじめられる。そう意識してみれば、「せっかくここまでやってきたんだから」の呪縛から、離れることができるはずだ。

もちろん、決めた目標に向かって努力を続けることは大事だと思う。それはそうとしても、いくらやっても目標に近づいていないと感じるなら、新たな選択肢に進むべく、行動をはじめよう。ちょっとずつでいい。「逃げてしまった」「根性がなかった」などと思い悩む必要はない。きっぱりとやめて、新しい人生を探しに行こう。

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