やる気を引き出すマネジメントも見事だった

【大木】僕も、テレビの撮影で渋沢さんの生家の跡地に行かせてもらいました。渋沢さんは、新しい時代は、身分に関係なく、それぞれの才能を活かしてみんなで豊かな社会をつくっていくべきだと言っていたというので、それは素晴らしいと思ってうかがってみたら、やはり家は大きかった(笑)。

テレビでも紹介したエピソードですが、渋沢さんは地元の農家の藍の品質を高めるため、藍の出来栄えによって生産農家の番付表をつくり、品質のよい藍を作った人たちを上席に据えて彼らを供応したそうです。競争心を目覚めさせ、褒めて伸ばす。マネジメントのセンスも身につけていたんですね。

でも江戸時代に『論語』を学んだ人はたくさんいたはずなのに、誰もが渋沢さんのように考えて大仕事ができたわけではありませんよね。

【安岡】肝心なのは、学んだことをいかに実践するかです。渋沢さんの行動を見て、素晴らしいと思う人は星の数ほどいたはずですが、実践した人は少なかったのでしょう。私の祖父、漢学者だった安岡正篤は、学問を実践して世の中に活かすことを「活学」と呼んでいました。

撮影=大沢尚芳

渋沢が大切にした「合本主義」とは

【大木】渋沢さんは『論語』を「活学」した人だったんですね。

【安岡】そのとおりです。渋沢さんは「合本主義」という言葉をよく使っています。公益を増加させることを目的に、適切な人材と資本を集め、事業を推進していくという考え方です。多くの人に参加してもらって、みんなの役に立つ事業を推進し、同時に利益を多くの参加者に分配して社会を豊かにする。そのサイクルを回して、よりよい社会にしていくことを目指していたのでしょう。

【大木】すごいなあ、渋沢さん。埼玉には総理がいないねって、ときどき言われることがあります。総理を何人出したってことに僕はどんな意味があるのか、と思っていましたが、渋沢さんを1人出しただけで、埼玉は十分偉いと思います(笑)。(つづく)

(構成=水無瀬 尚)
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