NHKの大河ドラマ「青天を衝け」の主人公、渋沢栄一は500社もの会社を立ち上げた。論語塾講師の安岡定子さんは「個人よりも公共の利益を優先してきた渋沢の原点は『論語』にある」と指摘する。歴史好きとして知られるお笑い芸人のビビる大木さんとの対談をお届けしよう――。(前編/全2回)
論語塾講師の安岡定子さん
撮影=大沢尚芳
論語塾講師の安岡定子さん

今こそ渋沢栄一の生き方にヒントがある

【ビビる大木】昨年は世界中が新型コロナウイルスのパンデミックに巻き込まれ、国民みんなが、暮らしはどうなるのか、経済はどうなるのか、と不安に駆られているうちに幕を閉じました。そして、いつになったら収まるんだろう、もとの暮らしに戻れるのだろうか、さあ、どうしようとの思いで迎えた2021年、僕らはしくもNHK大河ドラマで渋沢栄一の生涯や人となりに触れることになりました。

もちろん今年の大河ドラマの主人公が渋沢さんということは、ずっと以前に決まっていたことで、全くの偶然に過ぎませんが、僕は、天が2021年に渋沢栄一という人を置きにきた、逆の言い方をすれば、渋沢栄一という人の生き方に何かヒントがある、と天に教えてもらっている。そんな不思議な巡り合わせのようなものを感じます。

【安岡定子】私も同じ思いです。私は日ごろ『論語』をいろいろな方と一緒に読んでいますが、孔子は、先達せんだつの言動や生き方から学ぶことの大切さを繰り返し説いています。私も孔子を見習って、ビジネスパーソン向けの論語講座では、実際に『論語』を学び、自らの生き方に取り入れて活躍した歴史上の人物のお話をしています。

例えば聖徳太子や徳川家康、とりわけ渋沢栄一についてお話しする機会が多いのです。論語塾に来られる方の中には、渋沢さんが設立に関わった会社にお勤めの方も多いので、渋沢さんを通じて『論語』を身近に感じてもらえると思ったからです。

「公共の利益が先、個人の利益は後」を実践

【大木】渋沢栄一は500社以上の会社の設立に関わってきました。ビジネスパーソンの方々の多くが渋沢さんを知っているのは自然の成り行きかもしれませんね。

【安岡】企業活動には、経済的価値と同時に社会的価値を生み出すことが求められます。社会的価値の内容は時代によって変化しますが、いまなら、気候変動をはじめとしたさまざまな地球規模の課題を解決して持続可能な社会をいかに実現するか、SDGsですね。

『論語』には、「君子は義にさとり、小人は利に喩る」「利を見ては義を思う」など「義」と「利」という言葉がよく出てきますが、渋沢栄一は、義は公共の利益、利は個人の利益と解釈して「公共の利益が先、個人の利益は後」を実践してきた人です。論語塾に通ってくるビジネスパーソンたちも、そのことに気づいて、「なんだ、孔子は2500年も前に、そう言っていたのか」「渋沢栄一は、100年以上前に、そのことに気づいていたのか」と感心しています。

大木さんが今おっしゃった「天」は、『論語』にたくさん出てくる言葉ですが、私も天の配剤というか、人知の及ばない大きな力を感じます。