「保育料無償化」は完全に間違っていた
安倍政権は2013年に「2017年度末までに待機児童ゼロ」という目標を掲げ、その後2020年度末へと先送りしましたが、実現できませんでした。その間に完全に間違った政策がひとつあります。幼稚園と保育所の無償化です。
無償化は利用者の側から見ると誰の損にもならないので、選挙目当てに出されがちですが、待機児童問題の解決には逆行する政策だと考えます。そもそも保育料は所得に応じて決められるので、無償化の恩恵は高所得層が享受しやすくなります。ところがその層にとっては、金銭的負担よりも、まさに待機児童なしに子どもが預けられるかの方が重要です。
そしてそれ以上に問題なのが、「保育料無償化」の美名の元に衰退産業の幼稚園を保護する政策であったという点です。仮に幼児教育を無料にするのを認めたとしても、そこに夜までの預かりを可能にする保育所機能の付加を義務とするなど、認定こども園化への道筋とセットにしない限り、幼稚園を延命させ、待機児童問題の解決を遠ざけるのは明らかです。
最終的に無償化は、保育所の新設や保育士の待遇改善に回る予算を減らすことになります。付言すれば保育に対して(受け皿となる施設ではなく)費用を金銭的に援助するという政策は、米・英のように、公的保育所整備をあまりしない社会でとられる発想で、待機児童問題の解消には効果的ではありません。
「保育士が集まらない」人手不足倒産の危機
一方で近年保育所は、土地問題とは違う難題に直面するようになりました。私の保育所は、いま人手不足倒産の危機にあります。辞めた人のあとを採ろうと四苦八苦しているのですが、保育士が集まりません。いたるところで保育所が作られ、保育士の取り合いになっているのですが、うちのようなNPO法人で給与の低いところよりも、公務員になれる公立の園に人が集まるのはある意味で当然の現象です。
0歳児が一番補助金の単価が高く月額10万程度になるので、一定数受け入れたいのですが、一方で0歳児は3人に1人保育士をつけることが義務づけられており、保育士不足から保育の申込みがあるのに受け入れられません。結果として受け取る補助金が大きく減り、ここ2~3年赤字が続く状態になりました。
元をたどれば保育士の待遇が低いことが原因で、それに対しては国の補助金などがあり、一定程度給料を上げることはできました。ただ首都圏でふつうに働いてもなかなか年収400万に届かない状態では、なり手がいなくなるのはある意味で当然です。そのために保育料の値上げなども、父母会から提案する形で実現してきたのですが、現場でがんばってくださっている保育士さんたちに、充分報いることができていないのが現状です。