待機児童問題は市場原理では解決できない
つまり保育所は、産業として見ると土地生産性が低すぎて、大人が土の上に住めないような地域では、ビジネスとして成り立たないのです。
東京大学は認可園以外に7つ保育所を持っており、そのうちの一つの経営に、私はNPO法人の理事(無給)としてかかわっているのですが、赤字の園ばかりで、うちもここ2~3年赤字になってきました(理由は後述)。
ただそれでもなんとかしのいでいるのは、大学が家賃について配慮してくれているからです。これでもし、渋谷まで徒歩圏の庭付きの「豪邸」の相場の家賃を払ったら、あっという間に破産です。
逆にいえばもし市場原理に任せてしまえば、今までよりも劣悪な環境の保育所が、今までよりも高い価格で供給されます。待機児童問題は市場原理では解決できないのです。そういう意味で日本の保育所は、海外と比べても質の高いサービスを大量に供給しているといってよいと思います。
土地生産性が低いので、私有地に保育所を作るのは、駅の土地を持っている電鉄会社であったり、自社の社員の利用を想定する会社だけ。保育所の候補地は公有地に限られるのです。自治体は公園まで含めてありとあらゆる候補地を探すのですが……。
最初に手を付けるべきは幼稚園だ
この問題の解決には2つの方向性があります。ひとつは基準面積の緩和です。
東京都は国の認可園とは別に独自の認証保育所という制度を作りました。園庭はなくてもよく、0歳児の基準面積も2.5です。うちの保育所はこのタイプで、認可外保育所から認証保育所になったことで補助金が増え、財政的に一時期安定しました。ちなみにうちの場合、収入に占める利用料と補助金の比率は無償化以前で半々程度。保育所は自治体の補助金なしでは成り立ちません。横浜市が推進した小規模保育も、基準面積にとらわれずにマンションの1室などを利用した施設運営で、一時期待機児童ゼロを達成しました。
次に,幼稚園の業種転換。いま幼稚園は、一部のブランド園を除くとどこも経営に困っています。子どもの数は減り続け、共働き世帯は専業主婦世帯の2倍を超えて増え続けているので、幼稚園は完全に衰退産業です。
そこで保育所の機能と合体させようというのが、認定こども園なのですが、これがなかなかスムーズに進みません。文科省から幼稚園に補助金が出ており、幼稚園側が乗り換えようとするメリットを失わせているのです。
大都市部で広い園庭と専用の設備を持つにもかかわらず、夏休みには人がいなくなる幼稚園。もっとも早く手をつけるべきはここだと考えます。利用者が減少し続ける私立の幼稚園を補助金で延命させていることが、この問題の元凶です。