約5年前、「保育園落ちた日本死ね!!」と題した匿名ブログが話題になった。子育て世代の多くは、いまだに保育の確保に悩まされている。東京大学教授の瀬地山角氏は「保育所はビジネスとして儲からないから、需要があっても供給されない。まずは幼稚園の業種転換を促すことが必要だ」という――。
保育園
写真=iStock.com/paylessimages
※写真はイメージです

ビジネスとして儲からないから増えない

また「保育園落ちた」の季節がやってきました。「日本死ね」(※)から5年も経つというのに、いっこうに待機児童問題は解決しません。なぜなのでしょうか?

(※)2016年2月15日に投稿された「保育園落ちた日本死ね!!」という匿名ブログ。注目を集めた。

私は結婚相手を決める前から子どもの保育所を決めていたという変わった人間で、幸い子どもに恵まれ、その保育所に10年送り迎えをし、さらにここ20年ほどその保育所の経営に関わっています。キャンパス内の保育所ですが、東京都の認証保育所なので、地域の方にもご利用いただいています。今回はそんな利用者と経営者の立場から、大都市部の待機児童問題について考えてみたいと思います。

そもそも「日本死ね」のずっと前、2000年代の半ばから10年以上保育所が足りない足りないと大騒ぎしているのに、保育所が充分に供給されないのはなぜなのでしょうか。ふつうなら需要があるわけですから、企業が出てきて経営に乗り出すはずです。それができないのは、端的にいって保育所がビジネスとして儲からないからなのです。

「0歳児10人分の物件」で豪邸が建つレベル

みなさんはビルになった保育所を見たことがありますか。ビルのワンフロアの保育所なら見たことがあるかもしれませんが、まるごと保育所の5階建て、というのは存在しません。保育所は原則2階までと決められているからです。

これを指して、「タワマンで育児をしてるんだから、規制緩和して高いところでも保育できるようにすればいい」といった評論家がいましたが、現場を知らない暴論です。地震や火事の時、保育士は当然子供たちを連れて避難をします。そんなときに自分では歩くのもおぼつかないような0歳児や1歳児たちを何階もの階段を使って何人も避難させることができるわけがありません。これは命を守るための規制なのです。

そして基準面積。認可保育所の場合、0~1歳児をひとり入れたら、1人あたり3.3平米のほふく室と1.65平米の乳児室を確保する必要があります。とすると0歳児が10人入っただけで50平米の面積が必要になります。これに保育士の部屋や厨房、トイレ、手洗い場、お風呂、さらには園庭が必要。この時点で1階部分が80平米超+庭付きの一戸建てです。都区部ならこれだけで1億を超える物件でしょうし、賃料も相当高額になるはずです。でもそこには2階建てまでしか建てられない……。ちなみにまだ0歳児しか入れていません。2歳児以上では、1人あたり1.98平米の保育室と3.3平米の園庭が必要なので、2~5歳児が各10人いると、約80平米の保育室と132平米の園庭が追加で必要という計算になります。