高収入世帯「コロナ禍&妻ががん」で大幅減収、大慌て

ところが、話は計画通りには進まなかった。

昨年、蓉子さんから、再び相談申込みのメールが届いたのである。

結局、蓉子さんは、夫に押し切られる形で、5800万円の新築マンションを購入していた。最初の予算は4000万円くらいだったが、はるかにオーバーしている。きっと、物件を見て回っている内に、予算と希望の折り合いがつかず、跳ね上がったのだろう。

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それでも頑張って頭金を800万円貯め(主に蓉子さん名義の定期預金)、残りの5000万円は住宅ローンを組んだ。

今回の相談の理由は、蓉子さんにがんが見つかったため。毎月15万円の住宅ローンは夫婦の収入からみれば、十分返せる額である。それが、蓉子さんのがんの治療で、収入は減少。同時に、夫もリモートワークになったことで残業手当や出張手当などの諸手当がなくなり、世帯年収は3割減ってしまった。

夫の会社も業績不振「俺は早期退職者に募集する」

その上、蓉子さんの夫の会社がコロナの影響もあり、早期退職者を募集しているという。

「夫は、このまま会社に残っても、仕方がないと言って、転職を検討しています。すでに、転職先のアテもあるようで、『大丈夫だ。何とかなる』の一点張り。現職の年収くらいは保障されているみたいですが、完全成果主義の会社ですから、もう50代半ばの夫の気力や体力が持つかどうか……。私の病気の医療費もかかるし、夫の子どもへの教育費ももう少し続きます。それに住宅ローン返済は夫が79歳のときまで続きます。こんな状態なのに、貯蓄は相変わらずできていません。自分たちの老後は大丈夫なのか、本当に心配なんです」

蓉子さんには、再びキャッシュフロー表を作成し、それぞれの夫婦の年収がどの程度下がっても家計が持ちこたえられるのか、支出をどのように抑えるべきかなどを具体的に提案した。漠然した不安を抱えていた蓉子さんだったが、収入や支出の目標が数値化され、明確になったことで、「どこをどう改善すれば良いかクリアになって、ちょっと気持ちがラクになりました」と前向きな言葉も出るようになってきた。

さて、この事例は、高収入の夫婦であっても貯蓄があるとは限らず、さらに住宅ローンという大きな借金を背負った場合、何らかの予期せぬ理由によって、収入が減少してしまうと、一気に家計が回らなくなる可能性が高いことを示唆している。

こうした危機的状況を乗り越える方法はある。とにかく長く働いて、キャッシュフローを回すということだ。しかし、高齢になれば、病気やケガ、家族の介護などによって、思うように働けない可能性も考えておかなければならない。

そこで比較的若い読者に注目してもらいたいのは、自分だけでなくお金にも働いてもらう、つまり「投資」である。

もちろん投資や資産運用は、必ずしも家計の“救世主”ではない。命の次に大切なお金を預けて、大きく目減りするリスクもある。だから、これまでは堅実に家計の見直しや節約、預貯金などをお勧めすることが多かった。

要するに、やりたくないのにムリにやっても成果が上がらない場合が多いし、最低限の投資に関する知識や情報がなければ、金融機関の良いカモにされるだけだ。

しかし、このコロナ禍にあって、これまで普通に生活できていたのに、誰のせいでもない理由で失職や収入が減少。あっという間に困窮してしまう家計が少なくない状況を他にも目の当たりにして、家計を改善できる方法として、リスクをよく考慮した上で投資も前向きに検討するべきだと考えを改めるようになった。

前掲の蓉子さん夫婦も、20代、30代の頃から、給与天引きなどでコツコツと積立投資をしていれば、年収が高いだけに複利効果で資産も相当増えたはずだ。

マイホームもキャッシュで買えていたかもしれないし、病気の際は休職して治療に専念できたかもしれない。お金があるということは、選択肢の幅を広げることにつながる。

そして、投資や金融資産の有無の影響は、年齢が高くなるにつれて格差が広がることも無視できない。