日本の農家の約半数が大規模化のメリットがない稲作農家
また梅本(2014)は、比較的小さい規模で生産費がコストダウンの限界に到達してしまう理由を、規模が大きくなっても技術体系は変わらないこと、すなわち、機械体系、作業方式、耕種概要(単位面積当たりの作物の植え付け株数や肥料の量など)に関して、規模間でほとんど差がないことが大きいと説明している。
100ヘクタールを超える大規模経営も、5ヘクタールの経営も、作物の生産に必要な一連の工程である作業体系としては基本的に同じである。そのため、機械1セットと運転者一人の下では、10ヘクタール程度の規模で限界に達してしまうとともに、規模がN倍になれば機械もNセットになることから、生産・販売数の増減に関係なくかかる固定費は低下せず、一方では圃場数の増加・分散化にともない、様々な非効率が発生することになる。
ここまで、コメの生産には規模の経済が働くわけではないことを詳しく述べてきたが、先に挙げた「農林業センサス2015」によれば、農業経営組織のうち約50%が稲作単一経営であるため、大規模化によるコスト削減に限界があることの意味するところは大きい。すなわち、農業経営組織の半分が規模の経済が働かないコメの生産に従事しているのである。
人件費も増加し人材活用のノウハウも確立されていない
さらに、平石(2014)は、大規模畑作における規模の経済性の小ささを明らかにしている。
実際に大規模畑作が行われている北海道十勝地方では、10アール当たり農機具自動車費+労働費は、作付面積が10ヘクタールを超えたあたりで低減しなくなっている。また、家族労働力の下での耕作限界規模に達するほどの大規模経営では、100ヘクタールを超える経営体でさえも、家族労働力ではなく、家族以外の人を雇う雇用労働力を用いた経営のあり方は未確立である。すなわち、人を雇うための費用がその効果に見合わない。
こうした研究結果から、農業が大規模化されればされるほど農業者が規模の経済のメリットを享受して、農村地域が活性化するとは必ずしもいえない。たしかに大規模化にともなって収入は増加すると考えられるが、コスト削減の効果には限界があり、規模拡大に必要な人材活用のノウハウも未だ確立されていない。
衰退した地域でかつては基盤産業であった農業の活性化を、大規模化で図っていくのは難しいのである。