農業を大規模化するほどコミュニティの質が低下する

農業を大規模化したところでコストを削減する効果には限界があることを明らかにした研究にとどまらず、農業が大規模化するほどコミュニティに悪影響を及ぼすことを明らかにした研究もある。

森田(2014)によれば、1940年代のアメリカにおいて、人類学者のウォルター・ゴールドシュミットが、カリフォルニア州セントラル・ヴァレーに位置する面積、産物、生産量、人口規模がほぼ同じで、農場のサイズだけが大きく異なっている2つのコミュニティを比較して調査を行った結果、農場の規模が大きくなるほど、コミュニティの生活の質は低くなるという主張を展開している。

ゴールドシュミットは生活の質を、銀行、新聞、学校、地域のクラブ、退役軍人協会、教会の数などで測り、農場の平均サイズが小さいコミュニティの方がむしろそうした施設の数が多いことを明らかにしている。

また、社会学者のロバオとストッファーランは、分業に基づく非家族経営の工業化された農業がコミュニティの幸福度に悪影響を及ぼすのか否かについて、1930年代から2000年代までの既存の研究を調査している。

その結果、51の研究のうち、82%が悪影響の証拠を示したこと(57%が著しく有害な影響、25%がいくつかの有害な影響)を明らかにしている。これらの影響は、様々な研究デザインを用いたもので、異なる期間と地域にわたって示されている。工業化された農業の有益な効果は少なく、家族経営よりも収入が大きくなるといった、主に所得に関係する社会経済的状況に限られていた。ただし、コミュニティの中の所得格差は大きくなる(Lobao and Stofferahn 2008)。

これらの研究から、我々は農業の大規模化が与える悪影響についても考えなければならない。「農業の大規模化が農村の活性化につながる」という単純な図式は成立せず、むしろ農村を衰退させる可能性すらあるのである。

重要性が見直されている小規模農家

ここまで見てきたように、農業を大規模化することによってコストを削減するのには限界があり、「規模の経済」に基づいて衰退を食い止めようとする政策の効果には疑問が残る。むしろ大規模化が地域に悪影響を及ぼす可能性もある。

こうした懸念がある中で、近年では、小規模農家の重要性が見直されている。

国際連合は、2017年の国連総会において、2019~2028年を「国連家族農業の10年」として定め、加盟国および関係機関等に対し、食料安全保障確保と貧困・飢餓撲滅に大きな役割を果たしている家族農業に係る施策の推進・知見の共有等を求めている。

活動の柱としては、

①家族農業を強化する政策環境の整備・発展
②若者の支援と家族農業の世代を超えた持続可能性の確保
③家族農業のジェンダー公平性と農村女性のリーダーシップ的役割の促進
④知識の生産と農家の声の代表、都市と農村間をまたぐ包摂的なサービスの提供のための、家族農家組織と能力の強化
⑤家族農家や農村世帯・コミュニティの社会経済面での包摂性やレジリエンス、福利の強化
⑥気候レジリエンスあるフードシステム構築のための家族農業の持続可能性の促進
⑦地域開発、生物多様性・環境・文化を保護するフードシステムに貢献するイノベーションを促進するための多面的な家族農業の強化

の7つが挙げられている。