同様にスポーツにおいても、競泳では隣のレーンの選手の平均タイムは選手のタイムを向上させることがわかっている。一方でゴルフに関する研究では、タイガーウッズがいる場合、それが原因となって選手全体のスコアが悪化することがわかっている。

これは、ウッズがいることによって、選手全体がその大会で優勝することへのハードルが高まると感じ、勝利への意欲が低下することによってパフォーマンスが低下すると説明されている。過去の研究を見返しても、ピア効果の分析に関する結果は一貫しておらず、依然研究の余地があると言える。

ライバルは自分と同レベルで二人三脚が良い

このような留保が必要であるが、本稿で紹介した私の研究結果から言える確定的な事実がある。それは、読者の皆さんがゴルフコンペに参加する際は、是非とも同じレベルの人たちと同じ組みでコースを回るようにしてほしい、ということだ。そうすれば、仮にゴルフの実力が芳しくない人であっても、スコアをより悪化させる恐れを少なくできるはずだ。

また、この研究結果はPGA TOURでのデータに基づいているが、労働環境や教育現場にも置き換えて考えることもできる。

能力差が大きいと負のピア効果が生じる恐れがある。であるならば、同じ職場や教室にいる人が他者と比較して「相対的に能力が低い」という自己認識を持たせないケアが必要になるということだ。

特に人事評価や学業成績が低い人には、普段から些細な活躍に対しても肯定的に認め、自己肯定感を高めることでモチベーションを維持させることが重要になる。または、労働空間では極端な能力差が出ないような人材配置が望ましいと言えるだろう。

いずれにせよ、切磋琢磨をする場合には適切な相手を見極める必要がある。今回の分析を踏まえれば、その相手とは、自分より極端に優れている人ではない。自分と同レベルの相手とともに二人三脚で高め合うことが最善の選択肢となる。

参考文献
中室牧子. (2015).『「学力」の経済学』. ディスカヴァー・トゥエンティワン.
Guryan, J., Kroft, K., & Notowidigdo, M. J. (2009). Peer effects in the workplace: Evidence from random groupings in professional golf tournaments. American Economic Journal: Applied Economics, 1(4), 34-68.
Berger, J., & Nieken, P. (2010). Heterogeneous Contestants and Effort Provision in Tournaments-an Empirical Investigation with Professional Sports Data (No. 325).

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