「運転中止した高齢者が要介護状態になる危険性8倍」が意味すること
コロナとは異なるが、こんな話がある。
2017年に75歳以上の高齢者に認知機能検査を義務付ける改正道路交通法が施行され、その頃から免許返納運動が盛んになった。これで、高齢者ドライバーによる逆走やブレーキとアクセルの踏み間違いが減る、と多くの人がこの施行に賛成したが、「返納率増加が要介護率を大幅に上げる」という調査研究があるのをご存じだろうか。
筑波大学の市川正雄教授らのチームが愛知県の約3000人の高齢者を対象に行った追跡調査によれば、運転をやめた人はそうでない人に比べて6年後の要介護リスクがなんと2.09倍に上がるという。つまり、介護コストも同じレベル増える可能性があるということだろう。
なぜ運転をやめると要介護リスクが高まるのか。考えられる理由は、高齢者が免許を返納したり、運転をやめたりすることで外出の機会が激減することだという。こうした分析結果は、過去のフレイルにまつわる研究でも、私の臨床経験からもうなずける話だ。
国立長寿医療研究センター予防老年学研究部も高齢者の運転に関する同様の調査をしている。結果は、衝撃的な内容だ。運転を中止した高齢者は、運転を継続していた高齢者と比較して、要介護状態になる危険性が約8倍に上昇することが明らかになったというのだ。
社会との接点の激減が、要介護になる危険度を急増させる。コロナ自粛でも、似たような現象が起きないか私は大いに危惧している。
コロナであれ、高齢者の事故であれ、社会活動する上では常に何かの「危険」を伴う。だが、それを封じ込める対策をするだけで、他の対策を怠ると将来的に負の現象が起こる。為政者や官僚はそこをよくよく考えないと、ツケはきわめて甚大なものになる。