要介護者急増で将来の介護費用が推計を大きく上回る絶望シナリオ

本連載の趣旨は、「何が賢い人間をバカにするのか」ということである。今回問題にしたいのは、不安に煽られ近視眼的な対応に走ってしまうと、長期的には大きな損害をもたらすリスクを見落としてしまいがちということだ。

コロナの感染予防が大切なのは言うまでもない。だが、その長期的な影響を考えないともっと大きな問題が起こる。

長年、日本老年医学会などはサルコベニアやフレイル対策などをメインテーマにして活動してきたが、コロナ自粛をすることのリスク(フレイルなど)を訴えるような声明やアドバイスについては2020年3月に一度「高齢者として気をつけたいポイント」というチラシのようなものを出しただけだ。感染対策ばかりでフレイル対策の啓蒙けいもう活動をまともに行っているように思えない。

5兆円の介護費用増、国はどのように捻出するつもりなのか

要介護高齢者の激増は、国家の財政を直撃する。

2020年3月に発表された2019年3月現在の要支援・要介護認定者数は約658万人。高齢者の6人に1人に近い数だ。また2019年度の自己負担分を含めた介護費用の総額は過去最高の10兆5095億円だった(2001年度の約2.4倍)。

シニア世代のシルエット
写真=iStock.com/A-Digit
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1年以上続くコロナ自粛生活で、今後、どのくらい介護費用が増えるかは予想がつかない。だが、例えば5年後、高齢者増加に伴うコストの自然増だけでなく、コロナ自粛の反作用によるプラスαのコスト増が巨額なものになるのではないか。

コロナ禍で運動機能に問題のない普通の高齢者の一部がフレイルに陥り、フレイルの人は要介護に近い状態になり、要介護の高齢者のうち、まだ歩けていた人が相当の歩行困難となっている。臨床の現場にいると、相当数の高齢者が介護を要する状態になってしまうと容易に想像できるからだ。

高齢者増加に伴うコストの自然増に加え、仮に5年で5割上がるということになれば軽く5兆円以上の介護費用増である。これを公費でまかなっていかないといけないのだが、国はどのように捻出するのだろうか。