100人超のうち、レギュラー入りは40人だけ

これまでに私も社会人としてボトムアップを標榜するチームに編成されたことがある。しかしチームメンバー間で活発に意見が交わされたかと問われるとイエスとは言いづらい。結局、参加者が立場や実績を乗り越えることができず「日本人にこのやり方は合わない」と見切りをつけられてしまった。

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では、生徒によるボトムアップでプロダンサーのトップダウンを凌駕してきた同志社香里ダンス部の進め方は? この高校では3学年で100人を超える部員が在籍しているためステージに上がるためのレギュラー争いは熾烈だ。大会は出場メンバーを最大40人までと定めているので、どうしても選抜から漏れる生徒が出てきてしまう。

大会に出られない生徒をこの学校では「練習メンバー」と呼んでいる。「練習メンバー」は、他校ならレギュラー入りできる実力があるからこそ立ち直ることが難しい部分がある。一方で選抜された「大会メンバー」は近くで傷ついているチームメイトに気を使いながらも大会作品の質を上げなくてはならない。

「大会メンバー」と「練習メンバー」に分断されたチームを部長・副部長はどうまとめるのだろうか?

ダンス披露後、部長は練習メンバーに…

2020年の全国大会3日前のこと。2年ぶりの優勝がかかった追い込み期間にも関わらず練習のタイムテーブルに空白があった。取材をしながら不思議に思っていたら、大会メンバーが練習メンバーに礼をしたのち全力の通し稽古を披露した。

その直後、梶浦麻椰部長が練習メンバーを集めて円陣を作った。梶浦部長は、「もう順番とかごちゃごちゃでもいいから、思ったこと何でも言ってください」と披露したばかりのダンス作品について抜き打ちで意見を求めたのだ。

しかし私は本番直前のこのタイミングで、サブの練習メンバーが作品の変更につながるような本質的な発言をすることはないだろうと予想した。案の定、1人の2年生が手を挙げかけたが、すぐに下ろしてしまった。彼女は副部長の促しでなんとか発言したものの、その声はか細くほとんど聞き取れない。

それでも梶浦部長はいつの間にかノートを手に取り、出た意見をメモし始めた。

全力で踊り終えたばかりなので、髪は乱れ、息を切らしていたがペンを握る手には力がこもっていた。その姿を見た練習メンバーからは徐々に具体的な改善点が上がりはじめた。彼女たちの見解はステージに上がらないかわりに、客観性があり、作品の質を向上する大きな力になった。