「入ってくるのが遅いからって優しくするのは違うから。ちゃんと厳しくするけど落ちこみすぎないように最大限持ち上げよう」
「厳しくする」と「最大限持ち上げる」をどう両立するのか? 話を聞いていた私にはまるでイメージができなかった。しかし実際に部活が再開されてようやく理解できた。
「厳しさ」は発言で、「優しさ」は行動で示す
基礎がおぼつかない1年生が習ったばかりのダンスをぎこちなく披露した後、上級生はダメ出しをして改善点を伝える。その指摘は手加減なし。上級生は、新人の練習期間が短いことを考慮した甘い発言を絶対にしなかった。思わずうつむいてしまう新人たち。それを見た私は心配になった。たとえ指導が的確でも初心者部員のモチベーションは下がってしまうのではないか? と。
しかし次の瞬間、練習場に響き渡ったのは上級生みんなの大きな拍手。彼女たちは発言ではなく、無言の行動で新人の健闘をたたえたのだ。1年生はチームの気配りを汲み取り笑顔を見せた。
何事も言語化して伝えるクセのある私は、過去の振る舞いを反省した。似た状況の場合、嫌われることを恐れて厳しくは言わず「短時間にしては良くできているね」などと安易なお世辞で「持ち上げる」だけになってしまっていた。これではチーム内の仕事のOKラインが徐々に下がってしまう。
堺西高校ダンス部のリーダーたちは「厳しさ」は発言で、「優しさ」は行動でというメリハリをつけ、良い雰囲気を保ったままレベルの高い育成を行っていた。
演出は生徒が行うボトムアップ型チーム
こうした取材はNHK BS-1にて「勝敗を越えた夏 ドキュメント日本高校ダンス部選手権」という99分のスペシャル番組になって、2018年から毎年9月下旬に放送されている。2020年末には『高校ダンス部のチームビルディング』(星海社新書)というタイトルで書籍化もされ、新世代のチームワークのあり方を多角的に取り上げた。中でもビジネスパーソンから大きな反響をいただいた学校がある。
京都にほど近い大阪府寝屋川市にある同志社香里高校。最大の特徴は、「外部コーチがいない」こと。部活ダンスへの世間的注目が増すに従って、プロダンサーをコーチとして招き振り付けを一任する学校が増えている。そんな中、同志社香里ダンス部ではコーチを置かず生徒のディスカッションによってダンス作品を練り上げるボトムアップ型のチームだ。このスタイルでこれまで歴代最多となる6回の全国制覇を達成している。