領土問題を「経済協力」だけで解決するのは無理

ロシアに融和姿勢を貫いた安倍外交の司令塔は、今井尚哉前首席秘書官ら経済産業省グループだった。経産省は伝統的に、経済協力をてこに外交課題を解決しようとし、主権意識や安全保障への配慮が希薄だ。

外務省ロシアスクールのOBは、「安全保障に配慮し、毅然と交渉しなければ、領土問題が前進するはずがない」と当初から経産省外交の「失敗」を予想していた。

今井氏らは「日本に親近感を持つプーチン大統領の下でしか解決させるのは困難」という発想で臨んだようだが、モスクワ国際関係大学のドミトリー・ストレリツォフ教授は「日本側はプーチンが独断ですべて決められる強い指導者との幻想を信じていたのか」と皮肉っていた。

30年前に外務省が大失敗

プーチン政権の内政・外交が硬直化する中で、プーチン時代の領土問題解決はもはや不可能とみるべきだろう。安倍外交挫折の代償は大きく、北方領土問題の一層の長期化は避けられない。

羅臼町望郷台公園のプレート(撮影=プレジデントオンライン編集部)

一方、反政府指導者のナワリヌイ氏は2年前、北方領土問題で、「世論が返還に反対している。私や他の人物が大統領になっても、結果の出ない交渉を日本と繰り返すだけだ。解決に現実味はない」と突き放していた。(『日本経済新聞』2019年3月14日朝刊)ロシアの政権がどちらに転んでも、日本には厳しい展開が待っている。

この点で、30年前のソ連邦崩壊直後の千載一遇のチャンスに、日本外務省が積極的な外交攻勢を行わず、絶好の機会を逸してしまった責任は重い。

この際、改めて過去の対露外交の「失敗の研究」が必要だろう。

関連記事
「敗戦国に権利はない」反日派のロシア外相の交代で、高まる"2島返還"の現実味
軍事パレードに「ハリボテのミサイル」を並べるしかない北朝鮮の行き詰まり
「1分に1回以上登場する"ある口癖"」菅首相の話し方が国民の不安・絶望感を増幅するワケ
メルケル首相のような「ハッとするコロナ演説」をする政治家が日本にいない理由
日本にとって「韓国の異常な反日」が大チャンスである理由