ロシアは日中を天秤にかけて中国を選択

安倍・プーチン交渉が始まった頃、ロシアには中国と日本を天秤にかける動きがみられた。

だが、2014年のウクライナ領クリミア併合で欧米から経済制裁を受ける中、ロシアは中国に傾斜し、準同盟と言えるほど軍事・経済的連携を強めた。

中露貿易は日露貿易の4倍以上で、プーチン政権が日本よりも中国を選択したことは明らかだ。

「私とウラジーミルの手で必ず平和条約を締結する」「平和条約締結へ確かな手応えを得た」などと期待をあおった安倍首相は、「平和条約締結が実現しなかったことは断腸の思い」の一言を残して退陣し、交渉の詳しい経緯は不透明なままだ。

「トランプもプーチンも」の安倍二股外交にロシアは不信感

実はこの間、欧米諸国が安倍政権の融和的な対露外交に冷ややかな視線を送っていたことはあまり知られていない。

ドイツのメルケル首相は2015年3月の訪日時に安倍首相に対し、「武力でクリミアを併合したプーチンを見逃せば、中国もアジアで同じことをやりますよ」と警告していた。

ある西欧の外相も安倍首相に「主張を弱めると、ロシアは逆に攻撃的になる」と伝えていたという。

米国務省当局者も2年前、筆者に対し、「安倍政権の対露外交はあまりに楽観的で、希望的観測を基に外交を展開している。今のロシアが領土を返すはずがない。プーチン政権の外交・安保戦略の本質を直視すべきだ」と述べていた。

羅臼町望郷台公園から国後島を望む
撮影=プレジデントオンライン編集部
羅臼町望郷台公園から国後島を望む

この当局者は「安倍首相の対露外交はどうせ失敗する。日本は教訓を学ぶことになるだろう」と冷淡だったが、結果的に的中した。

安倍首相はトランプ氏と親交を重ねながら、プーチン大統領にも取り入り、「トランプもプーチンも」の二股外交を進めようとした。しかし、米国の厳しい圧力に直面するロシアは、安倍政権の虫のいい対露外交に不信感を抱いていたようだ。