日本の単独行動を許さないバイデン政権で日露交渉は後退へ
バイデン米政権の誕生も、日露関係にはマイナスに働きそうだ。ラブロフ外相はバイデン氏当選後の会見で、今後の日露交渉について、「多くの分野で実際の政策がどう形成されるか見守る必要がある」と述べ、対日交渉を急がない姿勢を示した。
バイデン大統領は「ロシアは米国の安全保障にとって最大の脅威」「同盟国と結束してロシアに対峙する」と公言する反露派。ロシアはバイデン政権下での日米関係や米露関係を見極めた上で対日交渉を進めるとみられる。
ラブロフ外相はその後も、「日本がロシアを敵視する米国と同盟関係にある以上、懸念は続く」「米国が日本に中距離ミサイルを配備すれば、対抗措置を取る」と対日けん制を強めている。
親露的なトランプ前大統領は安倍政権の対露融和路線を容認したが、バイデン大統領は「同盟国の結束」を重視しており、日本の単独行動を許さないだろう。
日露交渉は歯舞、色丹の引き渡しを明記した1956年日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速化するとの安倍・プーチン合意を受けて、2019年から本格交渉に入ったが、ロシア側首席代表のラブロフ外相は「4島がロシア領であることを公式に認めることが交渉の条件」と強調した。
これを認めるなら、領土問題はその時点で法的に決着するわけで、日本側は到底応じられない。交渉は冒頭から暗礁に乗り上げた。
安倍前首相の涙ぐましい努力もロシアには通用しなかった
ロシアでは、昨年8月に毒殺未遂に遭った反政府活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏の組織による動画「プーチンのための宮殿」が大きな反響を呼び、政権の汚職腐敗やナワリヌイ氏の拘束に抗議する反政府デモが1月23日と31日、全国の100都市以上で行われた。経済停滞やコロナ禍で国民の生活苦や不満が高まっており、政権としては、世論の反発をさらに高める領土割譲には応じられない。
こうして安倍首相の退陣後、日露交渉は暗転してしまった。
戦後、安倍首相ほど北方領土問題解決に使命感を持ち、ロシアに友好的な政策を進めた首相はいなかった。安倍首相は計11回訪露し、プーチン大統領と27回首脳会談を行った。国是の「4島返還」を「2島」に譲歩し、米国の対露封じ込めにも同調しなかった。
ロシアだけを対象とした対露経済協力担当相を設置し、経済協力の「8項目提案」を行った。
だが、こうした涙ぐましい努力もロシアには通用しなかった。
北方領土を4度も視察した政権内反日派のメドベージェフ安保会議副議長(前首相)は2月1日の会見で、「(領土割譲禁止という)憲法上の立場がはっきりした以上、ロシア領を日本に引き渡す交渉を行う権利がない。日本との平和条約交渉はテーマがなくなっている」と述べ、“交渉打ち切り”を示唆した。