入院拒否する理由は「仕事を休めない」ではないか
さらに議論すべきは、仮に入院拒否者が相当数存在したとして、それらの人たちがなぜ入院拒否をするのかということだ。自分が無症状感染者となって元気なのに出歩くなと命じられた場合、その命令を破ってでも出歩こうとするのはいかなる状況のときか、入院したくないと思うのはいかなるときか、自分ごととして考えてみよう。
「仕事を休めない」というのが、おそらく一番多い理由ではないだろうか。自宅に居ろと言われても、日当で生活している人の場合、10日も14日も休んだら月収の3分の1~2分の1を失うことになる。まさに死活問題だ。感染を隠して出勤する、出勤せざるを得ないということは十分考えられる。
また仕事はなんとか休めても、独居などで周りに頼れる人がいない場合、そして行政からの支援が十分に受けられない場合は、自宅隔離期間であっても生活必需品の買い出しなど外出せざるを得ないというケースもあるだろう。一方、自宅に要介護者や小児などがいれば、自分が入院しているわけにはいかない。感染させてしまうリスクと家族を放置することによるリスクとのジレンマが解決できない場合は、入院勧告に即座に応じることは困難だろう。
つまり一概に入院拒否者といっても「他者に意図的に感染させることを目的として病院を抜け出して出歩く人」より、これらの種々の解決困難な事由によって指示・勧告どおりの療養ができないというケースが圧倒的に多いのではないだろうか。これらの事由を抱えている人に対して罰則を科すということが果たして適切なのか。罰則ありきで、根本的な議論がすっかり抜け落ちているのではないか。
「保健所が行う行動歴調査を感染者が拒否したり、虚偽回答をしたりすれば50万円以下の罰金」も検討されているとのことだが、このような罰則を作って感染者を犯罪者扱いしようとすればするほど、真の感染者は水面下へと移動、かえって情報収集は困難となって国内の感染実態の把握も困難になることは想像に難くない。政府は厳罰化が感染抑止につながるだろうと安直に考えているのかもしれないが、その意に反して感染はむしろ広がる危険性さえあるだろう。
罰則よりも所得補償や感染者の家族のサポートを
もし「感染者を出歩かせない」ことを徹底したいならば、罰を科すより、出歩かないでもいいような施策を講ずること、出歩かない方が得策と思えるような対策を打つことの方がよっぽど効果的だ。
まずは所得補償。感染して仕事を休まねばならなくなったときに、収入を気にすることなく、また自分の休業によって他者にまで影響が及んでしまうことを心配することなく療養に集中できるよう、感染者個人に対してはもちろん、事業所に対しても財政支援が十分に行われること。食料はじめ日常生活の必需品を現物で支給してもらえること。
これらの生活保障を十分行うことで、「しっかり休業して出歩かない方が得策」だと思える施策を十分に講ずることが、感染者の外出や入院拒否を防ぐためには最も効果的であると私は考える。
そして感染者の家族である感染していない要介護者や小児を地域でサポートする体制の構築も非常に重要だ。一時的にホテルや旅館などの宿泊施設を行政が借り上げて活用することも選択肢となり得るだろう。「感染者用の療養施設」に比べてハードルは下がり、宿泊客が見込めない状況にあって協力を申し出る宿泊施設も少なくないのではなかろうか。