コロナ禍で確信した米中同時衰退
パンデミック後の世界の支配者は誰か。現在のところ、アメリカに代わって中国が超大国になるという見方が有力だ。
その理由を簡潔に記す。中国は軍事と経済の面で大国になる。毎年大量のエンジニアを輩出する中国は、AIをはじめとする未来のテクノロジーの分野でトップクラスだ。中国領土には数多くの戦略的な資源が大量に眠っている。莫大な金融資産を保有する中国は電子マネーを創設して、これを世界通貨にしようと画策している。
一方、アメリカではパンデミックが終息に向かう見込みはまだない。アメリカの失業者の多くは無保険であり、医療費を賄う術をもたない。そうした一方で、桁外れの報酬を得る者が跋扈し続ける。都市部での暴動では、著しい社会的格差や人種差別が大きな争点になっている。ジョー・バイデン氏が大統領になっても、アメリカの孤立主義は変わらないだろう。アメリカの国力は相対的に低下し、アメリカは国際舞台の中央から退き、自国内に山積する問題の解決に専念するようになる。
しかしながら、中国が超大国になるという見方は正しいとはいえない。なぜなら、中国は、軍事、金融、経済、司法、文化の面において、自国の規範を世界に押し付ける力をもたないからだ。むしろ、この危機によって、中国の力は弱まるのではないか。その理由を2つ述べる。
1つめの理由として、中国政府に対する国際的な信頼は、今回の危機で失墜したからだ。2つめの理由として、人口の高齢化が加速する中国の社会保障制度はきわめて貧弱だからだ。貧しい国や社会保障制度の貧弱な国で暮らす国民の老後はきわめて悲惨だ。これこそが現在の中国の姿だ。
中国には2つの選択肢しかない。1つめは独裁者を温存させる選択だ。だがこの場合、優秀な企業家と独創的で優秀な人材が締め出される恐れがある。2つめは、思い切って民主化する選択だ。だがこの場合、中国は旧ソ連と同様の運命をたどり、過去の内戦時代に舞い戻って熾烈な戦国時代を迎える恐れがある。
世界に規範を課すのが、アメリカ、中国、さらには、ヨーロッパや日本などの国家でないとすれば、この役割を担うのは巨大IT企業かもしれない。その証拠に、GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)は、国防、文化、医療、金融などの面で、すでに決定的な影響力をもつ。
歴史の法則として、権力を握るのは情報を操作する者だ。きわめて重要な情報を先駆けて把握できれば、国民に伝える情報を自分の都合に合わせて操作できる。そしてエネルギー経済から情報経済への移行が、情報分野における飛躍的な技術進歩により、予想以上の速度で進行したこともこの法則の効果を強めた。