大学病院ほど各科がそろっているところはない
山上医師は「地域の大規模病院が初療の役割を担ったほうがいい」と指摘する。
「特に大学病院は、教育、研究、特殊な病気の治療などを担うのももちろん大切ですが、役割を見直す必要があるのではないでしょうか。大学病院ほど各科がそろっているところはありません。当院でも初期治療は救急医が行えますが、より専門的な治療となると、夜間の眼科や歯科の対応が難しいのが現状です」
現在は「重症者の受け入れ・治療を中心にした体制」だ。しかし、それでは軽症と思ったけど重症だったという“見逃し”が、これまでと同様、今後も起こり続けるだろう。
「ですから大学病院のような大規模病院で専門医がそろっている施設に、急性期の医療資源を集約化してERで初療を担う。そして軽症者を選別して、大規模病院から中小規模の病院に転院搬送という体制がベストだと思います」(山上医師)
救急の現場では「軽症と思ったけど、実は重症だった」というケースが頻発する。例えば、おなかが重苦しくて気持ちが悪い時は「心筋梗塞」が、背中が痛いというケースの中には「大動脈解離」が潜んでいる恐れもある。「感染症」だってそうだ。
「熱があるから感染症とも限らないし、熱がないから感染症でないとも限りません。体温35度5分の低体温で運ばれて、実はすごく重症の感染症だった場合もあります」(同)
医師会や自治体が決断すれば「交通整理」はすぐに実行可能
救急医のようなオールマイティーな医師が診断を下し、より専門的な治療へは各科につなぐ。2024年度から適用される「医師の働き方改革」を見据えても、「医師と患者の集約化」と「地域間の連携」の流れをつくることが必須だろう。
この流れが全国で最も滞っているのが、東京都といっていい。毎晩、すべての科で当直医がスタンバイしている大学病院が近距離圏内に複数存在するのだ。これは医師の疲弊を招く。月ごとに救急外来を当番制にする、あるいは行政主導で初療を請け負う病院を決定するなどの“交通整理”が必要だろう。繰り返しになるが、それは医師会や自治体が決断すれば、すぐに実行可能なこと。現に神奈川県はその枠組みを始めている。
2020年4月、私はプレジデントオンラインで「全国の救命救急センター長たちが『医療崩壊』という言葉に違和感を持つ理由」という記事を執筆した。その際、東京都医師会に「都内の救急搬送受け入れが厳しい状態だが、なぜそこの交通整理を行わないのか」という質問を文書で送った。それに対し、東京都医師会は「現状、その問題は認識しており、東京都・東京消防庁・学識者の方々と検討、調整中でございます」と回答した。
今回、この記事を書くにあたり、「あれから半年以上、東京都医師会ではどのような取り組み・体制づくりを行ったか。神奈川県のような各病院の機能分化に値するようなものはあるか」という質問を文書で送ったが、期日までに回答はなかった。