やぶ蛇にならないよう余計な一言を避ける
何も問題ないじゃないかと思うかもしれないが、これはやぶ蛇になってしまう恐れもある。3年ほど前、サントリーは女性蔑視とも取れるビールのCMを流して炎上をしている。また、30年以上前、佐治敬三社長(当時)が、首都機能移転の議論が行われていた時期に東北地方に対する差別的な発言をして猛烈な批判を浴び、不買運動まで起きて謝罪へと追い込まれたこともある。
わざわざ自分から「人権」を持ち出すと、こういう過去が蒸し返される恐れがあるのだ。事実、東北差別発言については、今回の騒動で言及したメディアもあった。
つまり、「人権」に関しては、サントリー側にも苦い記憶があるのだ。そういうリスキーなテーマをあえて自らネタ振りをしてしまっている。ノーコメントのようで、結果として吉田会長が投げたボールを打ち返してしまっている。同じ土俵に上がっているのだ。
特に「人権」というのは、人種だけではなく、ジェンダー、労働、障害者など様々な問題と結びつけられて、ひとり歩きする恐れもある。そんな地雷だらけのテーマにわざわざ自分から首を突っ込むのは、灯油をかぶって火に飛び込むようなものだ。そもそも、「人権尊重」は現代社会では常識だ。当たり前のことを、こんなリスキーな局面でわざわざ言う必要はない。むしろ、「そこまで人権、人権って強調するってことは、何か後ろめたいことでもあるの?」とうがった見方をされる場合もあるのだ。
やりすぎなくらい用心深いほうがいい
そんなことまで神経を使わないといけないのかと辟易とされるかももしれないが、SNS全盛の今、些細な言動が引き金で、壮絶なリンチを受け、「死」に追い込まれるような人たちが後を絶たないのも事実だ。
とにかく人の揚げ足を取りたくてしょうがない人たちが世の中にたくさんいることを踏まえれば、これくらいの用心深さがあってもいいのではないか。
いずれにせよ、最大の防御は、社外の人間について言及をしないということに尽きる。「人を呪わば穴ふたつ」という昔から語り継がれる戒めは、企業危機管理の世界でも通用する。ライバル社に対してイラッときているワンマン経営者の方たちも、そこはぜひとも心に刻んでいただきたい。