地元への貢献とセーフティーネットの存在
筆者自身、コロナ以降、身辺の“ライブ仲間”から幾度となく聞かされたのが、「ライブハウスに行けなくなって心の居場所がない」という言葉だった。ライブハウスは、さまざまな理由で世間から爪弾きにされた人やどんな人でも受け入れる、誰をも拒まない場所だからだ。生きにくさや孤独感を抱え、ライブハウスを心の拠り所にしながら社会生活を送っている人にとって、ライブハウスは貴重な空間である。
後藤はアジカンとして昨年10月にシングル『ダイアローグ/触れたい 確かめたい』を、後藤正文ソロとして12月に新曲『The Age』を含むアルバム『Lives By The Sea』という作品を世に送り出した。バンドとしての新曲『ダイアローグ/触れたい 確かめたい』は、コロナ騒動の前にロンドンで録音。CDのみに収録されている3曲目「ネクスト」は、リハーサルもなければメンバーにそもそも会えないという環境の中、Zoomで話し合って生まれた作品でもある。
「触れる、確かめる」ことの大切さ
「『触れたい 確かめたい』はコロナになる前に作っていたんですけど、この言葉がこんなに身につまされるとは思ってもいなかった。触れたり確かめたりすることは大事という気持ちは前々からあったけど、こんなに色濃くなるのは想像していませんでした。『ダイアローグ』は、いろんな立場の人が、国や社会や地域の中にいるけど、大事な考え方として『同じ船に乗っているんだ』ということがモチーフになっています。どんな共同体だって色んな人がいるわけで、どうにか上手くやっていくしかないですよね」」
日本語で「対話」を意味するタイトルだが、「世界が水没していくイメージで作った」とも語るこの歌に込めたメッセージは、自身の立場も投影したという。
「この時代を生きるひとりの人間として、どういう未来を選んでいけばいいのかなと。いずれは環境的な破滅が待っているんじゃないかという時代を生きているわけで、そういう内容を比喩として込めた。でも、基本的にはもっともっとみんなの声を聞きたいんです。小さな願いでも、それが発せられることにこそ意味があると思うし、そういう声に対し『黙れ』という文化ではなく、耳をすませる社会でありたいなと思う」