生演奏の体験がファンを増やしていた

ライブやコンサートができない現実を前に、自分だけでなく、業界として、仲間全体として打撃を受けていると語る後藤。彼はこの夏を“フェスが無い夏が終わった”と表現している。

大小問わず、この数年でフェスは日本全国で当たり前のものになっていた。町おこしのようで、盆踊りの代替のようであり“フェス文化”という言葉と共に新しいコミュニティーが萌芽していた。それは「今度は個別のコンサートにも行ってみよう」という新規ファンが生まれる機会でもあった。ぴあ総研によると、音楽公演の市場規模(チケット推定販売額)は、2010年の3159億円から2019年は6295億円とほぼ倍増。後藤の言葉は、この反動と損失を感じてのものだろう。

「フェスも含めて生で音楽を聴くという体験は一回限りのものなんです。立っている場所によっても聞こえ方が違うし、“二度と起こらない現在”をその場で見ているんだと思う。演奏していても感じるけど、ファンの方もよく言う『何年の○○フェスの演奏が良かった』は、1回しか体験できないからこその表現でしょ? 歌い回しや演奏のアンサンブルって、DVDで記録しても物理的には全くよみがえってこないんです。音は“まるっと”れないから、レコーディングでも何かを録り逃してしまう。絶対に収録できないものがあるんです」

後藤正文氏
撮影=遠藤素子

「お前らは不謹慎だ」という声に

アーティストとしてライブを完全に録音できないと語るほど、特別で上質な体験。ただ、20年にわたりライブハウスへ通う筆者も含めた“ライブ好き”の悩みどころが、“ライブハウスに行ったことがない人間に、コロナ禍のいま、どうその魅力を伝えるか?” である。大小問わず公演中止が相次ぎ、「一度でいいから試しに行ってみて」とも言えない事態へと陥ってしまった。

後藤はその実情も垣間見ながら、「もう少しライブハウスの側も自分たちのことを発信しなければならない」と関係者の1人として自戒の念も込める。ライブハウスなどへの助成金交付を求める運動「SaveOurSpace」に参加。実に30万筆もの署名が集まった支援活動の裏には、やはり“発信する意思”が大切だという思いが見え隠れする。

「確かに僕らが若い頃はライブハウス=怖いというイメージがあった。(ライブハウスに行ったことがない人に=編集部注)いきなり地方の雑居ビルに入ったハコに来いというのも酷ですし。でも、ハイスタ(Hi-STANDARD)以降、すごく身近な場所になったとも思う。等しくさまざまな現場から『困っているんだ』という声は上がるべきですよね」