歌舞伎界の仲間のため、休んではいられない

コロナ禍で苦しむ日本のエンターテインメント業界。その復活のため、いち早く動き出した一人が、市川海老蔵氏だ。

9月11日、熊本県・八千代座を皮切りに全国12会場27公演を行う『古典への誘(いざな)い』の巡業を実施した。

実はこの巡業公演、様々な公演が白紙になり、先行きが全く見えなかった5月時点で、海老蔵氏は実施を決意していた。一行の全員が揃って各地を移動するツアーは、クラスター化のリスクも考えられる。それでも動き始めたのは、歌舞伎界の仲間のためだった。

「個人的には、年内は休んでもいいと思っていました。本来であれば(延期になった市川團十郎)襲名公演で、骨身削って、もう血の涙を流しながら舞台に立っているような忙しい日々だったはずが、自宅での子どもたちとの生活。本当に貴重な時間でした」

歌舞伎というものは一人じゃできない

「ですけど、歌舞伎というものは一人じゃできないんです。音楽家、照明家、大道具さん、小道具さんとか、身の回りのことをやるスタッフがいっぱいいるわけで、そういう人たちが生活できないわけですよね」

雑誌『プレジデント』11月27日(金)発売号、特集は「毎日が楽しい孤独入門」、表紙は市川海老蔵さんです。
雑誌『プレジデント』11月27日(金)発売号、特集は「毎日が楽しい孤独入門」、表紙は市川海老蔵さんです。

彼自身は映画やテレビ、CMなどにも出演し、生活に関する悩みはなかったという。しかし、周囲はそうではなかった。3月以降、関係者だけでなく役者たちも収入がなくなってしまう。ウーバーイーツで生計を立てていた役者もいたというから驚きだ。

「自分の家に来てもらって、子どもの稽古を見てもらう代わりにお小遣いをあげたりしながら、生活を聞くわけです。『正直、ヤバいっす』『誰も助けてくれません』と。奥さんも、家族もいるのに給料なし。そんなのが4カ月、5カ月も続くわけです。切実な問題でしょう。周りの人間たちをいかにして生活できる水準に戻すかということを、第一に考えなくちゃいけない。そういう中で、9月からの公演を考えようと」