「アンテナを立てさせてくれ」社長自ら頼み込む

しかし研究所で開発・試作するのと、実際にインフラを構築するのは訳が違う。地道にアンテナを立てていく作業は計画通りに進むはずもなく、基地局建設の遅れや、技術認証に適合しない端末の販売といったトラブルで、楽天は2020年4月のサービス開始までに総務省から6回の行政指導を受けた。

基地局の建設が遅れた最大の理由は、アンテナを立てられる場所を見つける「物探」にあった。業者に頼んでも場所がなかなか見つからないのだ。

ここで楽天はベンチャーらしい火事場の馬鹿力を発揮する。楽天グループの中核事業であるネットショッピングの楽天市場などから精鋭600人を楽天モバイルに移籍させ「物探部隊」を編成して絨毯爆撃を開始したのだ。

まずアミンが率いる技術部隊がその地域をカバーするのに適したビルの候補を見つけ出す。半径2キロメートルの地図の中に候補地が数カ所あり、物探部隊はビルのオーナーを探して「アンテナを立てさせてくれ」と頼み込む。

最も苦労したのが携帯電話利用者が密集する東京駅周辺だ。アンテナを立てられそうな場所はすでに3メガが占有しており、なかなか候補地が見つからない。やっと見つかった候補地は、ある大企業の本社ビルの中庭だった。三木谷が自らその企業のトップに会いに行き、アンテナを立てる許可を取り付けた。ドコモやKDDIの社長がここまでするとは思えない。

「2026年全国展開」を5年前倒しに

用地を確保した後は工事が始まるがここでもさらに問題が発生した。3メガのアンテナ設置を請け負ってきた工務店の仕事のペースは、楽天が想定してたものよりはるかに遅かった。サービス開始まで4カ月に迫った2019年12月のある日、三木谷は「なんでそんなに急がせるんだ」と首をかしげる工務店の社長を集めてこう熱弁した。

「皆さんはアンテナを立ててるんじゃないんです。日本の未来を創っているんです」

意気に感じた工務店が動き出す。2020年3月、総務省に提出していた計画の3700本を上回る4600本のアンテナがサービスエリアに立ち並んだ。

今のペースでアンテナを立て続ければ来年の夏には全国に4万4000本のアンテナが立つ。楽天モバイルは「2026年」としていた全国展開(人口カバー率96%)のタイミングを2021年に前倒しした。

今は、楽天モバイルのネットワークを外れるとローミング契約を結んでいるKDDIの回線に切り替わり、こちらはデータ使い放題ではないので、すぐに上限に突き当たる。これでは勝負にならないが、自前の回線で全国をカバーできる来年からは楽天モバイルの仮想化ネットワークがその真価を発揮する。その時利用者はどちらを選ぶのか。来年の今ごろには日本の携帯電話市場の勢力地図が大きく塗り変わっているかもしれない。

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