35ドルの設備機器でWi-Fiを整備する

当時のインドの通信インフラは日米欧に比べて大きく出遅れており、4Gはおろか3Gも2Gもほとんどない状況だった。携帯電話のデータ使用量は世界154位という通信後進国である。インフラのないインドに携帯ネットワークを構築するには時間がかかると見たアミンは、まずWi-Fiのアクセスポイントを整備することにした。

Wi-Fiネットワークの方が携帯ネットワークよりは安く構築できるが、それでもインド全土をカバーするにはかなりの資金がかかる。そこで考えたのが「仮想化」である。従来のWi-Fiネットワークはアクセスポイントに置く専用の機器が重要な役割を果たしていたが、アミンはデータのほとんどをソフトウエアで処理する「仮想化」を採用することで1000ドルだったアクセスポイントの設備を、自前で作った35ドルの機器で間に合うようにしてしまった。

35ドルのアクセスポイントはあっという間に100万カ所に設置され、携帯の電波が届いていない場所でもWi-Fiが使えるようになった。リライアンス・ジオは事業開始から数年で1億人の利用者を獲得した。

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写真=iStock.com/golubovy
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「携帯の仮想化は実現できる」と判断

「Wi-Fiの仮想化」で自信を得たアミンは、次のステップとして「携帯の仮想化」を構想した。原理は同じである。高価な専用の交換機を使わず、データセンターなどで使われている汎用のサーバーを使えるので、インフラ構築のコストを大幅に低減できる。ただそれでもWi-Fiよりははるかに大規模な投資になるためリライアンスの首脳は決断に二の足を踏んだ。

そんな2018年2月、バルセロナで開催されたモバイル・ワールド・コングレス(MWCバルセロナ)でアミンは三木谷と出会う。三木谷はリライアンスのインドでのWi-Fi仮想化の成功に強い興味を持っていた。

アミンが「携帯の仮想化」について説明すると、三木谷は身を乗り出した。

「面白い。それをウチでやってみないか」

この瞬間「マイ・アイデアがアウア・アイデアになった」とアミンは振り返る。三木谷は通信の専門家ではないが、「携帯の仮想化は実現できる」と直感的に判断した。

アミンは半年後、楽天モバイルに移籍し「携帯仮想化」の開発をスタートさせた。「世界初」の試みにチャレンジするアミンの元には、インドをはじめ世界53カ国から腕自慢の技術者が集結した。

「開発部門はまるで国連のようだ」とアミンは言う。

ここで三木谷が長年、取り組んできた「社内公用語の英語化」が生きる。すでに英語で議論する環境が整っていたため、「国連」はスムーズに動き出した。