ahamoの月額2980円は、菅政権からの強烈な値下げ圧力を受けた結果でもあり、つとめて「政治的」な価格設定である。既存のドコモユーザーが全てahamoに乗り換えてしまったら、ドコモは赤字に転落する。
このためahamoは加入手続きを実店舗では受け付けず、オンラインに限定した。データ使用量の上限を20ギガとしたのも、高額な料金を支払うヘビーユーザーを従来のサービスにとどめるためだろう。
破格でも「黒字化できる」楽天の戦略とは
では価格破壊を仕掛けた側の楽天モバイルの台所事情はどうなっているのか。
楽天モバイルの会長も兼ねる楽天の三木谷浩史会長兼社長は2023年ごろに700万~800万件の加入者を獲得し、この時点で黒字化すると踏んでいる。「データ使い放題で月額2980円」という破格の価格設定で、なぜ黒字化できるのか。
なぜ楽天は5Gの料金を3メガの3分の1にできたのか。鍵を握っているのは2018年に楽天モバイル副社長兼CTO(最高技術責任者)に就任したタレック・アミン。アミンは楽天モバイルのインフラ投資が3メガに比べて格段に少ない理由をこう説明する。
「我々は世界初の完全仮想化ネットワークを使っているからだ」
コンピューター、通信の世界における「仮想化」とは、それまでハードウエアで処理してきた信号をソフトウエアで処理することを指す。例えば初期の国産パソコンは日本語変換機能を焼き付けたROM(読み込み専用の半導体=ハード)を搭載していた。これに対し「IBM互換機」と呼ばれたコンパックなどのパソコンはOS(基本ソフト=ソフトウエア)での言語処理を可能にし、コストを大幅に引き下げた。
楽天モバイルの仮想化ネットワークは、これと同じことを携帯電話ネットワークでやっている。もちろん世界初の試みである。
在学中にインテルに誘われ、開発に参加
アンマンでヨルダン人の父、ロシア人の母の元に生まれたアミンはコンピューター工学で秀でた才能を持ち、米ポートランド州立大学で電子工学と物理をダブル・ディグリーで専攻した。在学中にインテルから誘いを受け、1年半ほどビデオ会議システムで使うソフトウエアの開発に携わった。
その後、ソフトバンクに買収される前の米通信大手スプリント、AT&T、Tモバイルとエンジニアとして通信大手を渡り歩き、中国通信大手、ファーウェイの米国法人に落ち着いた。そこでインドのコングロマリット、リライアンス・インタストリーズから誘いを受ける。通信事業に参入するため優秀な技術者を探していたリライアンス会長のモカシュ・アンバーニは言った。
「アミン、我々と一緒にやれば、君はいつか自分の子供に『パパはインド13億人の人々の生活を変えたんだよ』と誇れるようになる」
面白そうだと思ったアミンは、リライアンスの通信子会社、リライアンス・ジオに移籍した。