ジェンダー間の圧倒的な非対称性

【中村】ただ逆パターンはあるかもしれない。新宿二丁目でカラダを売ったお金でミュージシャンを続けているとか、デザイナーになったという男性もいる。男性がカラダを売る場合、自己決定権になるわけですか。

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【藤井】もちろん、なりますが、やはり男性の自己決定権の行使であっても、現在の社会の構造のなかにおいて理解する必要がありますよね。その点は、女性の場合とまったく変わりはありません。

ただ、なんといっても、ジェンダーは非対称的というか、対等ではなくて、男/女という区別はそれ自体で権力関係によって貫かれています。私たちの社会では、男性には社会的な選択の可能性が、女性に比べて圧倒的に開かれているのは紛れもない事実だと僕は思います。

この社会は残念ながら未だに男性中心であり、学歴やスキルのない女性の選択肢は非常に限られている。

【中村】北関東では男性と女性は圧倒的に非対称です。

【藤井】フェミニストが本当に手を差し伸べるべきというか連帯すべきなのは、自立もできなければ競争にも自分にも弱い、依存的な人たちなわけでしょ。

ただそういう人たちからすると、フェミニストは自分たちとは意見も違えば、生まれや育ち、生き方というかキャリアも違う、分かり合えるはずもないということで、当事者間で対立まではいかなくても、ディスコミュニケーションが起きてしまう可能性はあるのではないでしょうか。

勝ち組リベラルには見えない貧困層の現実

【中村】上流階級と人権派やフェミニストは相性がいいというか、言っていることが同じですね。で、風俗嬢や貧困当事者とは相性が悪い。まさにディスコミュニケーション状態です。

【藤井】勝ち組のリベラル層はフェミニスト団体と折り合いが非常にいい。その象徴、ネオリベの勝ち組がヒラリー・クリントン、超スーパーエリートですね。フェミニストのリーダーって、基本的に能力が高くて、男性との競争に打ち勝ってきた人たち。

だから競争への親和性が高いし、そもそも生き方とか考え方とかが自立的です。一方、性産業は依存型。男の欲望に依存することで成り立っている。

【中村】いまの日本は与党も野党もみんなネオリベ勝者なので、貧困の現実が見えない。どっちに転んでも格差は広がるし、丸く収まらない。そうこうしているうちに貧困と格差が広がり尽くしてしまって手に負えないことになってしまった。

【藤井】フェミニズムの内部からも当然、そこには批判はあります。

歴史を振り返ると、たとえば、ブラックフェミニズムがあった。白人、中産階級出身で、高学歴なフェミニストに対して、黒人のフェミニストが批判するわけですよ、「あなたたちの主張する女性の権利と私たちのとは違う」って。

女性としての差別だけではなく人種や社会階層としても差別されているのだと彼女らは訴えたんです。彼女らの主張によって、フェミニズムは運動においても理論においてもとても豊かになり、より洗練されましたが、対立あるいは分断は、相変わらず続く気がしますね。