12月17日、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)がオンラインで記者団の取材に答え、政府が2050年に温室効果ガス排出を「実質ゼロ」にする目標を打ち出したことに対し、「自動車業界のビジネスモデルが崩壊してしまう」「日本は火力発電の割合が大きいため、自動車の電動化だけでは二酸化炭素(CO2)の排出削減につながらない」と懸念を示し注目を集めた。電気自動車(EV)へのシフトは本当に現実的なのか? 戦略プランナーとして30年以上にわたりトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わり、話題作『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)などの著作で知られる山崎明氏は、メーカー・ユーザー両方の状況をよく知る立場から、世界的にEVが主流になるとの見方に対し4つの疑問を投げかけ、中国もHVを重視する方向に転じた事実に目を配るべき、と指摘する──。

「2030年代に自動車の主流はEVに」への大きな疑問

日本も2030年代半ばには販売される自動車をすべて電動車とする方針──こんなニュースが駆け巡った。一部で「ガソリン車販売禁止」と報道されたこともあり、混乱もあったが、ただし、電動車にはハイブリッド車(HV)も含まれるため、純粋な電気自動車(EV)がどの程度の比率になるかは不明だ。

一方、イギリスは2035年にはHVも禁止し、すべてをゼロエミッション車とする方針を打ち出し、米カリフォルニア州も同様に2035年にすべてをゼロエミッション車にすると表明している。

このような方針のもと、向こう15年ほどで急速にEVシフトが起き、EVが自動車の主流になる、という論調が最近目立っている。しかし本当にEVは主力になるのだろうか。私はいくつかの理由で疑問に感じている。

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第1の疑問:果たしてCO2対策の切り札といえるのか

EVを普及させる目的は、ひとえにCO2排出量削減である。それ以外の目的はない。そのための切り札がEVだ、と一般的には考えられている。しかし、果たして本当にそうなのだろうか?

EVは確かに、走行時に一切CO2を排出しない。しかしCO2排出量を考える時、一つ考慮しなければいけない重要な点がある。リチウムイオンバッテリーの生産には多くの電力が必要で、その電力が火力由来の場合、生産時に大量のCO2を排出してしまうのだ。

バッテリーの搭載量が大きければ大きいほどCO2の排出量は多くなる。ノルウェーのようにほぼすべての発電が水力の国や、フランスのように原子力発電が多くを占める国を除けば、まだ火力発電の比率はかなり高いのが現状である。