たとえば、店頭基点のマーケティングを考えてみよう。店頭の需要の動態に合わせて、短いサイクルで供給を管理する。売れた分だけ生産する。
たとえば、婦人用ブラウス。種類は多い。たくさんのブラウスの中から、消費者に気に入られたブラウスAが売れていく。そのブラウスAが売れ筋であり、多頻度小ロットの生産方式を採用すると、その需要の変動をスムーズにフォローできる。
日々、刻々と変化する消費者の買い物動向に応じて、店頭の商品構成を融通無碍に変更する。ここに、店頭基点のマーケティングの核心がある。
このやり方を習得するのは簡単ではない。多頻度小ロットの製造工程を構築し、店頭から工場へ入る情報の流れを整備し、流通過程にある卸や小売業に、そうしたやり方を支援してもらう必要もある。
だが、いったん体制を整えると、この方式は天下無敵。消費者ニーズ変化の分析力、それへの適応力、そして先を読む先見力は、そうした方式を採用しない競争相手には、どうもがいても得ることはできないものだからだ。
だが、そうした体制、そうした力は、成長の必要条件であっても、十分条件ではない。そうした方式をマスターした企業に、永遠の繁栄が約束されているわけではない。
いつか、その方式を採用する企業も増え、成長に翳りがさす。店頭マーケティングの代表選手のような企業でも、成長の曲がり角に直面する。自分の得意技を活かす「強み伝いの経営」(拙著『ビジネス・インサイト』参照)は経営の大原則なのだが、永遠の成長は保証されない。