「共生はしないが共存はする」
私の会社が経営する歌舞伎町内のバーは6店舗ある。各店舗それぞれに固定のスタッフもいるが、どの店舗にも所属しないスタッフが数名いる。そのメンバーが6店舗を回遊して、お客様のテリトリーを拡げてあげる。彼らはうちのグループ店舗だけではなく、それぞれ自身のテリトリーを歌舞伎町に持っていて、重なるハブの部分がうちのグループ店舗だということだ。自店だけに留まるのではなく、テリトリーを共有する文化があるのだ。
「共生はしないが共存はする」というのは長年、歌舞伎町商店街振興組合の事務局長を務めてきた城克さんの言葉だ。まさに歌舞伎町を表す言葉だと思う。決まったルールも線引きもない。だが歌舞伎町なりのモラルがある。自分のテリトリーを大事にするということは、他人のテリトリーに対しても敬意を持つということなのだ。
そんな自分のテリトリーを大事にする人々は、自分の懇意にしている店の前でたむろして缶ビールを飲んでいる人がいたら当然注意する。ふらっと来た行儀の悪いお客は追い出す。そういう光景を幾度となく見てきたし、自分もしてきた。
客引きは違法行為だが治安を守る存在でもある
こう言うと「初見では遊びに行きづらい街だな」と思うかもしれない。それはある意味間違っていない。1回飲みに行って最高の思い出になるようなエンタメ性が高い店は歌舞伎町には少ない。人間関係を継続的に構築していくこと、職種・性別を気にせず1人の人間として扱うコミュニティがたくさんあることこそが歌舞伎町の魅力だ。4月になると新しい客引きが増えて、街がポイ捨てのゴミで汚れる。しかし冬になるとゴミの量は減る。そうやって彼らも街の住人になっていく。
2018年のハロウィン、渋谷では車をひっくり返すような暴動が起きた。もし、同じような状況が歌舞伎町で起きたら、客引きたちは営業妨害だと止めるだろう。客引きは違法行為だ。そうであるにもかかわらず、彼らは歌舞伎町の安全性をある意味で守る存在なのだ。
自分のお店の前で暴れていればお店の人は注意する。実際に我々のお店で問題が起きても、近所のお店の人やお客様の協力で解決することがほとんどだ。みんな自分事のように協力してくれる。そうやって、歌舞伎町を自分たちの街だと感じるような、比較的長く働いている人やお客様が街中にいて自分たちのテリトリーを守るのだ。