リッチコンテンツが導く10兆円市場での生態系

このような世界が実現すると、10兆円程度の新たな市場が出現し、自動車をめぐる産業生態系が大きく変わる。なぜなら、テレビゲーム、VOD、モバイルアプリ、ホームシアター、行楽施設といった従来市場を一部置き換え、新たな価値を生み出すことになるからだ。また、年間1億台程度の世界新車販売のうち一定の割合を、コンテンツ利用に最適化されたクルマが担うようになる。仮に10%だとしても、その規模は数10兆円市場となる。

このような変化は、従来の完成車メーカーを頂点とするピラミッド構造も大きく変える。「移動」だけでなく、「コンテンツを楽しむ」という利用価値が自動車に加わるからだ。その結果、ゲーム、映画、アプリといったコンテンツ産業との距離が縮まり、自動車をめぐるお金の流れが激変すると考えられる。

一つめの可能性は、コンテンツ自体への課金だ。多くの人に支持されるコンテンツは、そのコンテンツ利用やダウンロードに対して課金しうる。スマホなどのアプリと類似の構造で、多くのコンテンツは無料かもしれないが、一部は有料になるかもしれない。オンラインゲームでのアイテムのように、特典を得るごとに課金することも考えられる。

独アウディは米ディズニーと連携して「アイアンマン」を展開

二つめは、クルマというハードウエアのフリー戦略だ。コンテンツ課金の商流を完成車メーカーが押さえることができれば、顧客接点を作るためにハードウエア販売の単価を下げることが合理的になる。現在、自動車の購入者は購入時に全額を支払うのが一般的だが、極端にいえば「無料のクルマ」が出てくるかもしれない。

三つめは、目的地側の費用負担だ。移動中に用いるコンテンツを集客施設などが提供することで、来場頻度の向上や滞在時間の延長、より直截的には商品等の購入促進が期待される。あからさまな広告ではなく、リアルの体験を豊かにする予告編とできれば効果的だろう。その場合、集客施設などが移動コストを負担することが考えられる。

いずれの場合でも、コンテンツの重要性が高まることは間違いない。たとえば独アウディは、すでに米ディズニーと連携している。これは車の走行に合わせたVR体験を提供するもので、映画「アイアンマン」の主人公となって宇宙空間を戦うのだという。魅力的なコンテンツを持つ事業者にとっての機会が広がっている。コンテンツの魅力が、自動車利用そのものの魅力に直接・間接に影響を与えることになる。

写真=同社プレスリリースより
アウディがディズニーとの提携で提供する車載VRサービス「ホロライド」。専用VRヘッドセットを装着してコンテンツを楽しむ。