隣人のTさん「大丈夫だよ、俺が捨てておくから」

実は“誰かとのつながり”によって、ゴミを捨てられる場合もある。仕事関係でも身内でもなく、隣人とのコミュニケーションで救われたゴミ屋敷の住人がいた。

足が不自由でゴミを捨てることができなくなり、ゴミ部屋化してしまったという依頼があった。依頼人は東京都内で一人暮らしをする70代男性。ケアマネージャーやヘルパーさんが男性の生活援助を行いたいが、物が多くてとても部屋に入れる状況ではない。アパートを管理する不動産屋が見かねて、あんしんネットへ連絡をとったという。

事前に見積もりをとるため、同社社員の平出勝哉さんが男性宅を訪れると、隣に住む70代Tさんも同席。依頼人の男性宅には、連載第2回で記した「ションペット」(小便の入ったペットボトル)があった。平出さんが「これは処理困難物という扱いになるので、弊社で処理すると追加料金となりますが」と話すと、隣人のTさんが「大丈夫だよ、俺が(作業当日までに)捨てておくから」と、申し出てくれたという。

作業当日は社員チーフの平出さん、私、アルバイト作業員を含めた計5人で1DKを片付けることになった。

撮影=平出勝哉
東京都内で一人暮らしをする70代男性の部屋。

室内にションペットはなかったものの“尿の臭い”がする。私は今回で10件目の現場だったのでいい加減この臭いにも慣れてきたが、初めて臭いをかぐ人はたまらないだろう。これを隣人(Tさん)が処理したというのだから、すごい。アルバイトの作業員も「あんな友人ほしいなぁ」とつぶやくほど二人は仲が良くて、私もうらやましかった。

「捨てなきゃしょうがねえだろ」「もう使わねえよ」

たとえば依頼人の男性は「部屋の出入りが多くなるので、いったん外に出てほしい」と平出さんが説得してもなかなか部屋から動けなかった。だが、「ここで座って見ていればいいよ」と、Tさんが共用廊下に椅子を置き、外に出るよう促すと、すんなり腰をあげた。

室内は大量の物が積み上がっているというより、カメラと筆記用具、小銭が、足の踏み場もないほど散らばっていた。カメラは50台はあっただろうか。レアなもの、新品なもの、多種多様なカメラが室内から出てくる。筆記用具、主にペン類も1000本近くはあったと思う。

作業員が廃棄するべきか否かの判断に迷うと、依頼人の男性に声をかける。そうなるとやはり物への思い入れがある本人は“捨てる”決心がゆらぐ。

返事ができない男性に代わって、Tさんが「捨てなきゃしょうがねえだろ」「もう使わねえよ」と横から口を出す。それを聞いて男性が、作業員に「捨てちゃってください」とかぼそい声を出す。