海外との取引のある企業は災害の影響を受けづらい

では、国境をまたぐグローバル・サプライチェーンではどうでしょうか。この点については、これまであまりデータがなかったために研究がなされてきませんでしたが、最近になって、各国の上場企業の有価証券報告書や企業のウェブサイト情報などを基にして、グローバル・サプライチェーンに関するデータ構築がなされはじめています。

写真=iStock.com/imaginima
※写真はイメージです

私は早稲田大学大学院生の柏木柚香らと、こうしたデータを使って2012年にアメリカ東海岸を襲ったハリケーン・サンディによる影響が世界に波及したかどうかを調べました。ハリケーン・サンディは、ニューヨークなどのアメリカの産業の中心地を直撃し、500億ドルに及ぶ経済的な被害を及ぼした、2010年以降では東日本大震災に次ぐ経済被害をもたらした大災害です。

分析の結果、ハリケーンの被災地外のアメリカの企業が被災地企業とサプライチェーンでつながっていれば、その企業の災害後の売上はそうでない企業にくらべて平均で20%も低いことがわかりました。

しかし、意外なことに、アメリカ国外の企業が被災地企業とサプライチェーンでつながっていても、必ずしも災害後の売上が下がるということはありませんでした。これは、ハリケーンの影響が国外には波及しなかったということを示しています。

われわれはさらに、アメリカ国内の企業を海外の企業と取引をしている企業としていない企業とにわけて、波及効果の違いを分析しました。すると、海外企業とつながったアメリカ企業は、被災地企業とつながっていたとしてもそれほど売上を減らしていませんでした。

密なネットワークが経済への影響を抑え込む

つまり、アメリカ国内にいようが国外にいようが、海外との取引がある企業にはハリケーンの影響がそれほど波及しなかったのです。これはなぜでしょうか。

海外との取引がある企業は、グローバル・サプライチェーンを通じてさまざまな情報を得ており、万一自分の取引先が被災して部材の供給が滞ったり、受注量が減ったりしても、その情報をうまく活用して新たな取引先を見つけることができるのではないかと考えられます。

さらに、アメリカ国内の企業のネットワークが密であるとき、サプライチェーンを通じたハリケーンの波及効果はより大きくなることがわかりました。逆に、アメリカ国外の企業の場合には、そのネットワークが密であると波及効果は小さくなりました。

つまり、国内企業の場合には密なネットワークの中で波及効果が循環して増幅されますが、グローバルな企業の場合には、密なネットワークを持つことでむしろ災害の効果の波及を阻止することができているわけです。

これは、グローバルな企業は海外の「よそ者」ともつながっており、グループ内で密につながっているとしても、波及効果をグループ外にうまく逃すことができるからだと考えられます。つまり、強い絆とよそ者とのつながりを併せ持った多様なネットワークが最強なのです。