自由にふるまうほど、つけ込まれてしまう

【上野】リブの女たちが両親のような男女関係は作りたくないって強く思っていても、女が自由にふるまえばふるまうほど、男につけ込まれる結果になってしまう。

【田房】そうなんだ……つけ込まれるっていうのは?

【上野】つまり、やらせてくれる女。

【田房】ああー。

【上野】セックスしても責任とらなくてすむし、自分は別なところで女を作って、卒業したら指導教官(大学学部あるいは大学院において卒業論文、修士論文、博士論文などの指導をする教員。当時、国立大学はまだ「教官」だった)を媒酌人にしてさっさと結婚する。そういう男が私の周りにもいた。あのヤロー、って言うと、男同士は「イヤ、アイツにも事情があって」ってかばうのね(笑)。

【田房】あはは!

【上野】というような中で、女の人たちはボロボロになっていったのよ。初期のリブの活動家たちって、男性の同志に裏切られた元女性活動家たちだった。その事情は日本だけじゃなくて、ヨーロッパでも、アメリカでも、世界的に似ていたわね。

【田房】今でも分業はありますよね。

【上野】そうだよねー。でも2015年の安保法案反対闘争の時に国会に集まった学生たちがいたでしょ? SEALDs(※7)【シールズ】の子たちに聞いたら、分業がまったくないとは言わないけど、かなり変わったってことがわかった。まずマイクを男の子と女の子が交互に持つでしょう? 昔は女の子は後衛部隊で、マイクを持って演説する女性はほとんどいなかったもの。女は圧倒的に少数派だから、目立つ。各党派ごとにマドンナがいるって感じ。

【田房】露骨ですね!

【上野】そういう野蛮な時代だったんです(笑)。

「男並みになろうとする女」をバカにする男たち

【田房】当時マイクを持ちたい女はいなかったんですか?

【上野】そういう女が「ゲバルト・ローザ」と呼ばれる。この命名自体にも揶揄があるよね。「女だてらに(女のくせに)」ゲバ棒を持って、男になり損ねた二流の男みたいな。戦力にならないのに、男並みを目指そうとする女だって。

【田房】そういう空気、わかります。私たちが子どもの頃にもありました。そういう女をバカにする感じ。

【上野】だから男並みになろうとする女は、それはそれでバカにされるのよ。

【田房】じゃあもう何やっても……。

【上野】何やってもよ。

【田房】もうつらい!

【上野】それが今よりもっと露骨に態度に表れる時代でした。

【田房】最近は「ビッチ」や「ヤリマン」といった言葉を、男が使う「誰でもやらせる女」という意味じゃなく、「セックスが好きでたくさんやりたい女」という意味で、女性が自称してるのもよく見かけます。

【上野】ビッチはもとは蔑称だけど、リブの女たちは自分から「魔女」って名乗ったわね。あの頃、田中美津さん(※8)たちが「魔女コンサート」をやってた。とはいえ、「私はヤリマンだ」って堂々と口にする雰囲気はなかったかな。

※7 【SEALDs】Students Emergency Action for Liberal Democracy-s(自由と民主主義のための学生緊急行動)。2015―2016年、第三次安倍政権下の安全保障関連法案に反対するため国会前抗議活動やデモ、集会を行っていたグループ。10~20代のメンバーが中心になりSNSで抗議活動を拡散し、幅広い層に運動が広がっていった。
※8 【田中美津】1943年―/鍼灸師/70年代ウーマンリブで活躍。学生運動の最中、バリケードの中の性差別を訴える「便所からの解放」というビラを配った「ぐるーぷ・闘うおんな」のメンバー。後にほかのグループと連携し、「リブ新宿センター」を設立した/『いのちの女たちへ とり乱しウーマン・リブ論』『この星は、私の星じゃない』など。