商品評価のためにつくられたサンプル数5000本以上

当然、このような結果が出れば、つくり直しになる。今度は「書き心地のよさ」を求めて改良作業に取り組むことになった。そしてようやく06年末のアンケート調査で良好な結果を得ることができたのだ。しかし、これでもまだ市場化は行われない。量産を見こしたモデルの再設計、部品の耐久試験など、いくつものハードルを越えて最終型が練り上げられていった。

実際、同社の入念な評価体制には舌を巻く。商品評価の段階でつくり出されたサンプルの数は5000~6000本にも上るという。そして、08年3月の初回出荷分の数十万本に関しては、歯車がきちんと回転するかどうか、なんと全数検査を行っている。

またこの評価の過程で、消費者を対象とする調査も行っている。商品開発部商品第二グループ係長の斉藤拓郎氏は、次のように話す。

「シャープペンの芯が斜めに減ってきて嫌だ。だから回してずっととがった状態ならば書きやすいはずというのは、あくまで仮説です。この特徴は言ってしまえば、非常にマニアックなものなので、本当にユーザーである中高生に受け入れられるかどうかわからない。それを立証するためにコンセプト調査を行いました」

この調査は、外部の調査機関に委託し、シャープペンのヘビーユーザーである中高生を対象に実施された。商品開発に莫大なお金と時間をかけたまさに戦略的商品であったため、一般論が導けるような定量的な把握が必要だったからだ。

クルトガは消費者の顕在的ニーズを具現化したいわゆるマーケットイン・タイプの商品ではない。社長室広報担当の飯野尋子氏が「シーズ型商品と言い切ってしまっていいと思います」と言う通り、技術畑の発想からスタートした商品だ。であるからこそ、この商品が本当に消費者に受け入れられるのかという不安が常につきまとい、それを払拭するためにヘビーユーザーに向けた大規模な調査を実施したのだ。そしてこの調査の結果がクルトガ発売の一つの原動力になったのである。

ヘビーユーザーは調査結果通りの行動を見せた。この商品は多くの中高生に受け入れられ、大ヒットしたのである。現代のヤングは、古来からの日本人の繊細さをDNAにもっており、単に書ければよいというのではなく、常にきれいに書けるということを望んだのだった。