片付けなければいけない現実から目を背けている

本件の作業はチーフ、男性アルバイト、私の3人で行った。玄関から続く廊下、階段、2階の廊下、男性の居住空間(=エアコンの設置場所)を片付けるのがノルマだ。「捨てるもの」「食品・処理困難物」、そして男性が大切にしている「書類」の3つのゾーンを作り、ダンボールや90リットルのゴミ袋にどんどん仕分けをしていく。

「これ、何かの癖なんですかね」

清掃作業中、男性アルバイトが私にスーパーのビニール袋の中を見せてくれた。そこにはペットボトルや弁当箱など、ありとあらゆるもののラベルが4センチ四方に切り刻まれて詰まっていた。室内を見渡すと、そういったビニールや破片が無数にある。

あとからこの件を石見さんに聞いてみると、「没頭」という言葉が返ってきた。

「ゴミ屋敷化する人はゲームに夢中になったり問題集を解いたり、他人とのやりとりがなく一人で没頭できる習癖を持つ人が大半です。片付けなければいけない現実から目を背けているように私には見えます」

膝元くらいの位置までゴミがあるのに、洗濯機がまわっている

時間にすれば2時間半だが、私は永遠のように長く感じた。

チーフが家主の男性に「作業終了」の報告をする。エアコン設置のスペースができたことを確認してもらい、皆で1階に下りると、隙間から見えるゴミ部屋の状態がすさまじかった。そう1階はまだゴミ部屋のままだ。

撮影=笹井恵里子
1階のゴミ部屋は膝元あたりまでゴミがたまっていた。

もはや膝元くらいの位置までゴミがたまっている。それなのに部屋の片隅で洗濯機がまわっているのが何とも滑稽だった。

チーフが「全部、きれいにしたほうがいいですよ」と声をかけると、家主の男性はこくりとうなずく。だが、しばらくして、

「でも……せっかく集めたんですけどねぇ」

第三者にはゴミにしか見えないものを、男性は「集めた」と、たしかに言ったのだった。